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ギュスターヴ・モロー〈オイディプスとスフィンクス〉モローオイディプスとスフィンクス

ソポクレス作『オイディプス王』とは?
悪人が最後まで一人も出てこないのに、悲劇になってしまう!
ギリシャ悲劇といえば『オイディプス王』といえる大傑作。
〈スフィンクスの謎〉を解いてテーバイの王となったオイディプス王。前王ライオスの殺害の犯人を徹底的に暴いていきます。その結果、問い詰められる多くの証言者……。彼らはオイディプス王を守りたいために黙秘するのですが「言わぬと殺す」と命令する王。その結果、オイディプス王とその妻イオカステを地獄に落とします。

オイディプス王[1]アポロンの神託と地獄

ソポクレス作『オイディプス王』No.1
コロス(合唱隊)=テーバイ市の長老

(都市テーバイ。王の館の前庭。神官とコロス、市民がゼウスの祭壇の前に)

スフィンクスの謎

オイディプス王
神官よ、なぜ祭壇の前に跪いているのか? 代表として申してみよ。何事であれ、喜んで手をかそう。
神官
王様、テーバイ市には香煙と治癒嘆願の祈り、嘆きの声が満ち満ちています。
王様は、かつてスフィンクスの謎

朝には四つ足、昼には二本足、夜には三つ足、で歩くものは何か?

を解かれて、市民を救ってくださいました。
神に近い人間として、王様の知恵でもって、この惨状をお救いください。
オイディプス王
わかっている。私の魂もこの国、あなたたちのために悲しんでいる。
熟慮の末、わが妻イオカステの弟、宰相クレオンをデルポイのアポロン神殿にすでに遣わした。
もう帰ってきても良い頃合いだ。
神官
ちょうど、クレオン殿がこちらに来るとの合図がありました。

アポロンの神託「殺害された前王ライオスの解明を」

(宰相クレオン登場)

クレオン
王よ、吉報です。神託はこう告げました。
「耐えがたい悩みといえども、正しくことが運ばれれば、すべて幸いに終わる」
オイディプス王
その神託の言葉では、はっきりとは分からず、安心もできぬが。
クレオン
殺害された前王ライオス殿のことで、
「追放、もしくは流された血を血であがなうことによって」
つまり、何人であろうとその下手人を罰するように、アポロン神ははっきりと命じられました。
オイディプス王
その犯人とは誰か、またどこにおるかは告げられなかったのか?
クレオン
このテーバイの地にて、と神は仰せられました。
オイディプス王
ところで、ライオス殿の殺害の状況はどうであったのか?
クレオン
かろうじて一人逃れてきた者が申すには「盗賊の集団に襲われた」と。
オイディプス王
なぜ、その者どもを追わなかったのか?
クレオン
王がお倒しになった怪物スフィンクスの災いのため、その他の事はおろそかになっておりました。

オイディプス王
では、私は初めからやり直そう。どんな努力も惜しまぬつもりだ。
ライオス殿の殺害が明らかにならなければ、破滅あるのみだ。
神官
さあ、みんな立とう。我らが求めてここにきた、そのことを王様は約束してくだされた。

コロス
かくて町人の滅びる者の数は知れず。
その子らは、痛む者とてなく、歎く人とてなく、
死をまき散らしつつ大地に倒れ伏し、
若妻と白髪の老母とは、
ここかしこ、祭壇のもとに、
おぞましい苦より解かれんものと祈り歎く。
疫病調伏の祈願の声は歎きと混ってひびきわたる。
おお、ゼウスの黄金の姫アテナよ、
彼らのためにうるわしい面の援けを送りたまえ。

(オイディプス王、神官、退場)

オイディプス王の厳罰の布告

(オイディプス王、登場)

オイディプス王
私はここに布告する。前王ライオス殿を殺害した犯人を知る者は、私に申し出よ。犯人だけでなく、知っているのに申し出ない者も厳罰に処する。
たとえ神の命がなくても、尊い王の殺害とあれば、究明しなければならぬ。
コロス
私たちは犯人ではないし、犯人が誰かも知りません。ところで、なぜアポロン神は下手人を明かにしなかったのでしょう?
オイディプス王
その言葉はもっともだが、神々が好まぬ時はいかなる人間も強いることはできぬ。
コロス
では、テイレシアス殿にお尋ねになったらいかがでしょうか。彼は、アポローン神に等しい能力の持ち主です。きっと明らかな答えを得られるでしょう。
オイディプス王
そのことなら、クレオン殿の言葉によって、すでに呼びにいかせた。

オイディプス王 vs 盲目の予言者テイレシアス

予言者テイレシアス:オデュッセイア冥界にて冥界のテイレシアス『オデュッセイア』より

(子供に手を引かれた盲目の予言者テイレシアス登場)

オイディプス王
テイレシアス殿、この国を、私を、穢されている全ての者を救ってください。前王ライオス殿を殺したのはいったい誰であるか? 教えてください。
テイレシアス
おお、知恵が何の役にも立たぬ時に、知恵を持っているということは何と恐ろしいことであろう。
よく知ってはいたが、忘れてしまった! 家に帰らしてくれ。そうすれば、あなたはあなたの、おれはおれの重荷を楽に耐えることができよう。
オイディプス王
返答を惜しむとは、災いの最中にあるこの国に対して好意あるものではない。神々にかけてお願いする。ここにいる者は全てあなたに願っている。
テイレシアス
あなた方は何も知らないから、そんなことが言える。また、あなたの禍いは言えぬ、明かしはせぬ。
オイディプス王
なんたる言葉、知っていながら言わぬ。我らを裏切り、国を滅ぼすつもりなのか!
テイレシアス
あなたを苦しめとうない。なんと無益な詮議をするのだ。おれが沈黙のうちに隠しても、ひとりでにわかることだろう。
オイディプス王
なら、話してくれ。
テイレシアス
これ以上は言わぬ。いくらでも腹を立てるがよい。
オイディプス王
ひょっとして、お前も殺害に加担しているのではないか!
テイレシアス
そこまで言うのなら、仕方がない。それなら、言おう。あなたが求めている殺害者は、あなただということだ。
あなたは、どんな災いのうちにあるのか気がついていないのだ。
いちばん血のつながりの濃い人と知らずに汚らわしくも交わって......。自分が誰の子か知っているのか?
ここにいる全ての者が、今にあなたを責めるであろう。
オイディプス王
これはクレオンの陰謀なのか? 目くらのお前が考え出したことではないな。
テイレシアス
クレオン殿はあなたにとって、何の災厄でもない。
オイディプス王
友たるクレオンが密かにおれにしのび寄り、お前を送り込み、おれを追い出そうと願うとは! 後でクレイオンに取り入ろうとするつもりだな。
かつて、おれより前に予言の力でスフィンクスの謎を解いて、なぜ人々を助けなかったのか? おれが、スフィンクスを黙らせたのだぞ。
テイレシアス
おれにはクレオンの助けなどいらぬ、アポロン神が主だからな。
立ち去る前にあなたへ言っておこう。ライオス殿殺害の究明を布告して、以前からあなたが求めている男、そいつは今ここにいるのだ。

(オイディプス王、テイレシアス、退場)

コロス
まさにゼウスとアポロンはさとく
人の世のことを知りたまえど
人の子なる予言者がわれらにまさる智をもつとは
何の確かなきめ手もない。
智によって人間はほかの者にまさることがあるにせよ。
とはいえ、わたしは、テイレシアスの言葉があたらぬうちは
非難に同意はけっしてすまい。
かつて有翼のかの乙女(スフィンクス)が人々の目の前で彼を襲い
あの人(オイディプス)は賢者、試煉によって町の友なることが示された。
それゆえに、わたしの心によっては罪ありとは
けっしてないであろう。

オイディプス王[2]前王ライオスを殺したのは誰だ⁉︎

フランソワ=グザヴィエ・ファーブル〈オイディプスとスフィンクス〉オイディプスとスフィンクス