- ミダス王、酒神バッカス(ディオニュソス)に触れるものはなんでも「黄金」にしてもらう
- 食べ物と飲み物まで黄金になり、自分の愚かさに気づくミダス王
- ミダス王、バッカスに許しを願い、身を清める
※神の名前は、ローマ神話名(ギリシャ神話名)です。
ミダス王の願い「触れるものはなんでも黄金に」
ミダス王のバッカスとシレノスを称える饗宴(物語ではバッカスはいません)
ある日、酒神バッカス(ディオニュソス)の親がわりの獣神シレノスは、酔っ払っているところをプリュギアの百姓たちに捕まりました。百姓たちは、ミダス王にシレノスを差し出しました。
プリュギアのミダス王は、バッカスの秘儀を授けられていましたので、たいそう喜びました。十日十夜シレノスを歓待し宴を催しました。
11日目、ミダス王はリュディアの野に出向いて、シレノスを若い養い子である酒神バッカスに返したのです。
バッカスは喜んで、ミダス王になんなりと望みのものを与えようと約束しました。
ミダス王は後になると災いになる願いをしました。
「わたしの体が触れるすべてのものを、きらめく黄金に変えてくださいますように」
バッカスはミダス王の願いを受け入れました。しかし内心では、もっとましなことを願わなかったのを悲しく思いました。
触れるものがすべて「黄金」になる不幸?
ミダス王はリュディアの野から帰る途中に、本当に黄金になるか試してみました。ヒイラギの小枝を折って手に取ると、小枝と葉は黄金に変わっていました。地面から石を拾いあげると、これまた金塊に変わりました。
ミダス王が木からリンゴをもぐと、まるでヘスペリデスの園の黄金のリンゴです。水に手を入れて出すと、したたる水は、まるでペルセウスの母ダナエーに降りかかったゼウスが変じた黄金の雨かと思われました。
昼になると、ミダス王の前に召使がパンとごちそうを山盛りにした食事の用意をします。
ミダス王がパンを取ると、パンは固く黄金に変わり、肉を口に入れると歯に当たった部分から硬い黄金になります。ぶどう酒を入れたコップを手にすると、コップは金に変わり、口に流したどう酒も黄金の水に変わります。
「父なるバッカスよ、お許しください」
とうとう、ミダス王は自分の愚かさに気づきました。黄金では飢えをしのげず、喉の渇きもいやせません。ミダス王は金ピカの食器を天に差しのべると、こう言いました。
「父なるバッカス(ディオニュソス)よ、お許しください。わたしが愚かでした。どうか、ご慈悲を! この災いから、お救いくださいますように」
バッカスは、願いを聞き入れました。
「黄金を求めるなど、愚かな願いをしたものだ。その垢(あか)を払い落とすには、サルデスの都に近い河を訪ねるのだ。山奥の河の源に行き、こんこんと湧き出る泉に頭と体を浸し、罪を洗い流すのだ」
ミダス王は言われたとおり、その水に浸りました。すべてのものを黄金に変える魔力は河の水へと移りました。そして、この河のある土地はいまや黄金の産地となっているのです。
※オウィディウス『変身物語』には書かれていませんが、ミダス王は娘にも触れ、娘が黄金に変わったとも言われています。
ミダス王と黄金になった娘