- テーバイ市の創始者カドモス、マルス(アレス)の竜に思いをはせます。
- カドモス、蛇に変身する。
- 妻ハルモニアも蛇に変身し、2人は森の中で静かに生きていきます。
※神の名前は、ローマ神話名(ギリシャ神話名)です。
カドモス、テーバイ市を離れる
孫のペンテウスを母親アガウエと2人の叔母イノとアウトノエが惨殺したことにショックを受けたカドモス。妻ハルモニアと従者を連れてテーバイ市を離れました。彼は、まるでテーバイ市が呪われているかのように思えたのです。
カドモスたちは長い放浪の果てに、ギリシャの北部をさらに北に行ったイリュリアの国に着きました。そこで、カドモスは妻ハルモニアと家の悲運の源を思いかえし話し合っていたのです。
カドモス、蛇に変身する
女神ミネルウァ(アテナ)の指示で、ドラゴンの歯をとるカドモス
「わたしが殺してしまったあのドラゴンは、神へ捧げられていたのであろうか? まいたドラゴンの歯によって生まれたテーバイ市の祖先スパルトイ(蒔かれた者)。これがわたしへの神の罰なのであろうか?」
「神のみ心ならば、願わくばわたしもドラゴンとはいわず、蛇となって大地に横たわりたいものだ」こうカドモスが言ったとたん、彼は蛇に変身しはじめました。
皮膚は硬くなってウロコがはえ、体には斑点が出てきました。両足はくっついて先が細くなり、尾になります。
カドモスはまだ残っていた手を妻ハルモニアにさしのべ「妻よ、おいで、さあこちらへおいで。なんと不幸なお前! わたしの手をとっておくれ。蛇にすっかり変身してしまう前に」と言います。
もっと話したいと思ったカドモスですが、その舌はすでに細くなり、二股に別れシューシューと音が出るだけです。頭もうつむきてきました。
カドモス妻ハルモニアも、蛇に変身
「ああ、あなた、お気の毒なお方。そのお体はいったいどうしたことでしょう。元に姿になってください。あなたの手、あなたの足、あなたのその顔の色、頭はどうなってしまったのでしょう」
ハルモニアは夫カドモスがすっかり蛇に変身してしまうと、「願わくば、わたしも同じ蛇の姿にしてください」と願いました。
カドモスは妻の顔をなめ、体で妻を包み込みます。そのとたん、ハルモニアも蛇に変身して、2匹の蛇は絡み合っていました。従者はみんな驚き恐れて、一歩も動けず見守っているだけです。
やがて、2匹の蛇は仲良く森の奥へ入っていきました。蛇になっても2人の心は元のままです。だから、この2匹の蛇は人を避けることもなく、襲うこともありません。
しかし、不可思議なことひとつがあります。ハルモニアはウェヌス(アフロディテ)とマルス(アレス)の娘とされています。カドモスが倒したドラゴンは、マルスに捧げられていたのです。マルスは娘を助けようとしなかったのでしょうか? 人間には、神意は計り知れません。