- ナルキッソスの予言で、ギリシャ中の名声をえたテイレシアス。ペンテウス王の運命を予言。
- 酒神バッカス(ディオニュソス)は、母セメレの故郷テーバイ市にやってきます。熱狂する市民!
- なぜペンテウスは、(従兄弟にあたる)バッカスを嫌ったのでしょうか?
※神の名前は、ローマ神話名(ギリシャ神話名)です。
テイレシアスのペンテウス王への予言
予言者テイレシアス(オデュッセイア挿絵)
「自らを知らないでいればな」
ナルキッソスが16歳で死んだことにより、テイレシアスの名声はギリシャ中に知れわたりました。
しかし、テーバイ市のペンテウス王は、テイレシアスをないがしろにしました。王は、もともと神々をかろんんじているのです。
テイレシアスは、王の近未来を予言します。
「あなたはバッカス(ディオニュソス)の祭儀を見ないでいられたらよかったのに。あなたの叔母セメレの子バッカスがテーバイ市にやってくる。この神に敬意を表さなければ、森を、母親を、母親の姉妹を血で汚すことになるだろう。そして、あなたは八つ裂きにされるだろう」
ペンテウス王は、予言者テイレシアスを追い出しました。
バッカスの凱旋
酒神バッカスが多くの信者を連れて、テーバイ市にやってきました。信者たちの叫びが、森や田野にひびきわたります。怒り狂ったペンテウス王も叫びます。
「スパルトイよ、軍神マルスの竜の歯から生まれた者たちよ。女の叫びや酒による狂乱、みだらな群衆に腰が引けるとはなんたる様! 酒神の杖より、木の葉で髪をかざすより、武器を手にとり、兜を被るべきではないのか! 竜は己の住処を守るために、命を捨てたのだ。おまえ達は、その竜の血統なのだ。
いまテーバイは、素手の少年バッカスに奪われようとしている。その少年は自分の父はユピテル(ゼウス)だと言いふらしている。その祭儀は、まやかしだ。このペンテウスが、どこの馬の骨ともわからぬ風来坊に怯えねばならぬというのか!」
怒りに囚われたペンテウス王は、家来たちに命じました。「そいつを鎖につなぎ、ここへ連れてくるのだ。早く行け!」
バッカスとペンテウス王は従兄弟
祖父カドモス、娘婿アタマスをはじめ、多くの一族がペンテウス王をいさめてもむだでした。かえって、火に油をそそぐ結果になったのです。
酒神バッカス(ディオニュソス)は、ユピテル(ゼウス)とペンテウス王の祖父カドモスの娘セメレの子。セメレはペンテウス王の母アガウエーとは姉妹です。だから、バッカスとペンテウス王は、従兄弟になります。
しかし、自分の従兄弟が神であるならば、ふつうは自慢したくなるのではないでしょうか? なぜ、王は酒神バッカスをきらうのでしょうか?
従兄弟どうしとはいえ、一方は大神ユピテル(ディオニュソス)の子で神です。一方、自分をふりかえれば王ですが、単なる人間です。神と人間の違い、この差は見過ごすことのできない大きな隔たり。ペンテウス王は、劣等感を抱いていたのではないでしょうか?