- パエトンは、父アポロン神に「自分が息子であることを、証明して欲しい」とアポロンの宮殿に行きました。
- アポロン神は「なんでもかなえてやろう」と、冥界の河スティクスに誓います。この河に誓うことは、後になっては神々でも変えることはできないのです。
- 「太陽神の馬車に乗りたい!」とパエトン。冥界の河スティクスに誓ったアポロンは、後々まで後悔することになります。
※神の名前は、ローマ神話名(ギリシャ神話名)です。
友だちエパポスのへの言いがかり
パエトンの墜落
ある日、友だちのエパポスがパエトンに言いました。「お母さんの言うことなら、なんでも信じるんだ。アポロン神をお父さんだと思いこんで、いばるんじゃないよ」
パエトンは顔が赤くなるほどくやしかったのですが、エパポスにはなにも言いかえさず家へかえりました。
「お母さん、エパポスに言われたよ、ぼくのお父さんが神さまなんておかしいって。ぼくは、なにも言えなかった。ぼくは、ほんとうにあの太陽神アポロンの子なの。何かお父さんであることを証明するものはないの?」
「パエトン、はっきり言いますよ。太陽神がおまえのお父さんで、まちがいありません。そして、おまえがお父さんの宮殿へ行こうと思えばいけますよ。ここから、東へ行けばいいのです」と、母クリュメネはパエトンに言いました。
次の朝、パエトンは日がのぼる東のはてへむかって、出発しました。その顔はすこしの不安と希望にみちています。
太陽神の父アポロンにあうパエトン
なん日もなん日も歩き、パエトンは高い山にある太陽神の宮殿につきました。宮殿はまぶしいばかりに輝いています。両びらきの門には、たくさんの神々が浮きぼりとなって描かれています。
パエトンが扉を開けて中に入ると、先にすすめなくなりました。なぜなら、赤いマントをきたアポロン神が輝いて、まぶしかったからです。アポロン神の左右には、「日・月・年・世紀」の4人の神々と、「春・夏・秋・冬」の4人の神々がすわっていました。
アポロン神はパエトンを見ると、話しかけました。「わたしの息子パエトンよ、なんの用できたのかな」。
パエトンのとんでもない願い
パエトン、父アポロン神に願う
「あなたが、ぼくのお父さんですね。お母さんの言っていることはウソではないのですね。それがわかるはっきりした何かをぼくにください」と、パエトンはアポロン神にお願いしました。
「お母さんは正しいよ、パエトン。おまえはわたしの子だ。だから、なんでもほしいものがあったら言ってごらん。冥界の河スティクスに誓いを立てよう」と、アポロン神はパエトンをやさしく抱きしめました。
この冥界の河スティクスに誓ったことを、アポロン神は後々まで後悔します。なぜなら、スティクス河への誓いは、神々でも、大神ユピテル(ゼウス)さえ、けっして変えることはできないからです。
パエトンは、すぐに「太陽神の馬車にひとりで乗りたい」と願いました。
アポロン神はびっくりしました。「パエトンよ、あの馬車に乗るのは子どもの力では無理だ。わたし以外の神々だって乗れないんだ。あの大神ユピテルだって乗れないんだから。だから、ほかの願いにしてくれ、この天、地、海のなんでも好きなものをやろう」
しかし、パエトンは太陽神の馬車に乗ることをけっしてあきらめません。
パエトン、太陽神の馬車に乗る
パエトン、太陽神の馬車に乗る
もはや、アポロン神のほうがあきらめるほかありません。だから、パエトンには馬車がとおる道がいかに危険であるかの注意をあたえます。「パエトンよ、天と地の中間を行くこと。天に高くのぼりすぎれば、天の宮殿をやいてしまう。低すぎれば、地上が焼かれてしまうと。
その後、パエトンをつれて太陽神の馬車があるところへやってきました。パエトンは太陽神の馬車を目の前にすると、目は大きくひらき、ワクワクしてきました。
その時、毎日太陽神の前をのぼっていく曙の女神アエロラ(エオス)が、夜をはらいます。星々は消えて、輝いていた明けの明星も消えました。
アポロン神は、「時」の女神に馬を馬車につなぐよう命じます。パエトンの顔には日焼け止めをぬってやると、もう一度やめるよう言います。
「おまえのことをこれだけ心配しているのだから、わたしが父であるということがもうわかったはずだ。今からでも遅くはない。この役はわたしにまかせなさい」
パエトンは最後のアポロンの言葉をきくこともなく、若者らしくさっと馬車にとび乗ります。そして、たづなを手にするとすっくと立ち、父アポロン神にほほえみました。