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このギリシャ・ローマ神話3つのポイント
  1. ビュブリス、やっとの思いで書き上げた手紙を兄カウノスへ
  2. 兄カウノスの怒りの拒絶と故国からの逃亡
  3. 泉になったビュブリスの最後
    ※神の名前は、ローマ神話名(ギリシャ神話名)です。

ビュブリス、書き上げた手紙を召使いに

ビュブリスは、兄カウノスへの思いを手紙にしたためました。その手紙は書いては消し、書いては消し、何回も直しました。そうしていると、自分が何をしたいのか分からなくなってしまうほど、彼女の心は迷ってしまったのです。

また、最後に「あなたの妹より」と書きましたが、「妹」は消すことにしました。そして、とうとう書きあがった手紙にはこう書いてありました。

わたしの幸せは、あなたによってしか与えられないものです。わたしの望みがかなえられることがはっきりするまでは、わたしがビュブリスであることも、本当は、知られたくありませんでした。

こんなわたしの心の悩みは、あなたにもわかっていたでしょう——顔の色や、やつれや、表情、いつも涙に濡れた目などから。

もしかしたらお気づきになったでしょうけれど、妹のものだとは思えないようなロづけを差しあげたりもしましたもの。

心に深傷をかかえ、狂おしい恋の火を胸にしながらも、ついには分別をとりもどそうとして、ありとあらゆる手だてをつくしたのです。

でも、今となっては、負けてしまったことを告白し、おそるおそる、あなたの助けをこい求めています。もっと親しく結びつき、もっと近いきずなで結ばれることを求めているのです。

この世の掟を守るのは、年寄りたちの仕事です。何が許され、何が罪で、何が正しいかということを考え、法律に照らすのは、彼らにさせておけばよいのです。わたしたちの年齢には、向こう見ずな「愛」こそがふさわしいと思っています。

どうか、愛を告白しているわたしを、あわれんでくださいますように! この上もない愛の炎がそうさせるのでなければ、けっして告白したりはしなかったでしょうに。

ビュブリスは召使いを呼ぶと「忠実なお前に頼みがあるの。この手紙を届けて欲しいの……わたしの(ためらうビュブリス)……お兄さまに」。すると、渡そうとした彼女の手から、手紙が落ちました。

「これは凶兆かしら?」ビュブリスはそう思いましたが、兄カウノスに手紙を渡す決心は変わりませんでした。

カウノスの怒りの拒絶と逃亡

カウノスは召使いから手紙を受け取り、読み始めてすぐに怒りで放り出しました。召使いにふり上げた拳を止めると、こう言いました。

「このごろつきめが! 許されぬ邪恋を取り次ぐとは。我が家の恥が明るみに出ることを考えれば、お前を殺しているところだ」

召使いは逃げるようにビュブリスのところに帰ると、カウノスの怒りをそのまま伝えました。彼女は青ざめ、体が震えました。が、すぐにこう呟いていました。

「これは、同然のことだ。どうして、最初にあの人(カウノス)の心を試さなかったのだろう。そうすれば、違った結果になっていたはず。しかし、もう引き返せない。ああ、手紙が落ちた凶兆があったというのに。

ああ、手紙などにしないで、自分で話すべきだった。そうすれば、あの人の顔色を伺い、色々対処できたはず……」

「もしかしたら、あの召使いが手紙を渡すタイミングが悪かったのかもしれない。あの人だって、人の子。何かの気の迷いと思ってくれるかもしれない。しかし、もう罪を犯したことには変わりはない。

これ以上何もしなくても、罪がない女だとはいえない。だから、何度しかけても、罪にはならない」

こうして、ビュブリスは自暴自棄になり、カウノスに何度も迫ったのです。しかし、兄は何度でも妹を拒絶します。とうとう、カウノスは故国を去り、異国へと逃れていきました。

泉になったビュブリスの最後

取り残され、悲嘆にくれ、正気を失ってしまったビュブリス。彼女も故郷を捨て、兄カウノスの後を追いかけます。

ビュブリスはカリア人、レレゲス人、リュキュアの荒野を叫びながら放浪します。クラゴスの山、クサントスの流れも後にし、怪物キマイラが住む峠も越えて行きました。

とうとう、ビュブリスは崩れるように倒れ、硬い地に横になりました。妖精たちが何度か彼女を抱き起こそうとしました。しかし、何もしゃべらず横になったまま、爪で青草をむしり、流れ出る涙で青草を濡らします。

こんなビュブリスを見ていた水の精たちが涙を受けるために、水路をこしらえてやりました。その後のことです。ビュブロスは自らの涙で溶けさり、泉になったのです。今でも泉からは、水がこんこんと湧き出ているといいます。