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ヘレネ幻のヘレネ?(モロー )

驚愕の真実!ヘレネはトロイアでなくエジプトにいた?

ヘレネの策略は、恋に狂ったテオクリュメノス王を自在に動かします。ヘレネとメネラオスは快速船を王に手配してもらうと、海岸にいた部下たちを船に乗せ出航します。

途中、メネラオスは命令に従わないエジプト人は斬り殺すか、海に落としました。そして、そのままスパルタへと向かったのです。

エジプト人の一人は命からがら逃げ帰ってきて、その様子をテオクリュメノス王報告します。王はおっても間に合わないので諦めますが、妹の予言者テオノエを殺そうとします。


『ヘレネ』No.1で書いておいたように、
ブラッド・ピット主演『トロイ』などの映画では、トロイアのパリスは美男子、メネラオスは不男が定番。ところが『ヘレネ』に出てくるメネラオスはイケメン、しかもヘレネは彼を愛し、ずっと操を守っているのです。今までのメネラオス像をくつがえす設定です。

エウリビデス作ヘレネ』No.4
コロス(合唱隊)=拉致されエジプトに売られたギリシャの女たち

(ナイルの河口にのぞんだ宮殿の前。前景に前王の墓)

ヘレネ[4]ヘレネとメネラオス、エジプトからの逃亡

ヘレネとメネラオスの逃亡の準備が整う

(王宮よりヘレネ登場)

ヘレネ
みなさん、すべてうまくいっております。テオノエ様も夫が生きていることを、王様には黙っていてくださいました。わたくしは、夫を川の水で清めてさしあげました。夫は葬いに使う武具を身につけ、万が一の戦いに備えています。これで船に乗ってしまえば、漕ぎ手のエジプト人のことはなんとかなるでしょう。
(王が出てくる)このことは黙っていてください。わたくしたちが助かれば、いずれあなたたちも助けることができましょう。

(従者を従えたが、メネラオスと登場)

テオクリュメノス
(従者に)お前たち、旅のお方の指図どおり、海への捧げ物を運んでいくのだ。ヘレネ、そなたはここに残っていてくれないか? 行っても行かなくても、夫に尽くす心に変わりはないであろう。悲しみのために海に身を投げぬか、それが気がかりなのだ。
ヘレネ
王様、そう思うことはありますが、そのことをあの方が喜ぶことはありませぬ。だから、行かせてくださいませ。
テオクリュメノス
(従者に)50挺櫓のシドンの船と漕ぎ手たちをこの二人に。よいか、船乗りたち全員、この方(メネラオス)の命令に従わねばならぬ。
ヘレネ
今日というこの日に、あなたにわたくしの感謝をおみせしましょう。
テオクリュメノス
うむ、メネラオスに劣らぬ夫になってみせよう。どうだろうか。わたしも船出の加勢をしようか?
ヘレネ
いいえ、そんな! 召使がするようなことを王様がなさってはいけませぬ。
テオクリュメノス
では、好きなように。誰か、代官たちのところへ行って、婚礼の祝い品を館に届けるよう言ってくれ。国をあげて、わたしとヘレネの婚礼を高らかに歌いあげてほしいのだ。
(メネラオスに)さ、客人、お出かけください。滞りなく終わったならば、妻を早く館に連れて帰ってきてほしい。そして、婚礼の席に加わっていただきたい。その後は、故郷に帰られるのもよし、ここに留まり幸せに暮らすのもよいだろう。

(テオクリュメノス、王宮に入る)

メネラオス
ゼウス様、この禍いからお救いくださいますように!

(ヘレネとメネラオス、その他の人々退場)

コロス
首長の渡鳥よ、飛んでお行き
エウロタスの川辺に降りて
言い伝えを持っていっておくれ。
トロイアを滅ぼしたメネラオス様が
やがて故郷に帰るだろうと。

大空に馬を駆り
テュンダレオスの子らよ
ヘレネ様の救い主、来たりませ。
ゼウス様のみ旨にしたがい
そよふく風を船人らに
送りとどけてくださいませ。
ご姉妹の濡れ衣を
注いであげてくださいませ。

ヘレネ

ヘレネとメネラオスの逃亡

(メネラオスに付いていった従者の一人が使者となって登場。王宮から出てきたテオクリュメノス)

使者
王様、悪い知らせです。ヘレネは王様が与えた船で、この国から出ていってしまいました。なんということでしょう。じつは、あの客人が本当のメネラオスだったのです。
テオクリュメノス
ばかな! とても信じられぬ!
だが、お前たちはたった一人のメネラオスにやられたというのか。詳しく話せ! 落ち度があれば、ただでは済まさぬ。
使者
われらが船出の準備をしていると、ボロの身なりをしたギリシャ人がやってきたのです。メネラオスは話しかけました。
「おお、お気の毒な、どうされたのだ? 何も伝手がなければ、メネラオス王の弔いを手伝ってはくれぬか。ここにいらっしゃるヘレネ様が海に出て追悼なさろうというところなのだ」と。

やつらは船に乗り込みました。われらはおかしいと思ったのですが、王様の命令を守り、黙って品々を船に運び上げていたのです。しかし、生贄の牛を船にあげるのにてこずっていると、メネラオスが言ったのです。
「トロイアを滅ぼした者どもよ、さあ、ギリシャ人らしく牛を肩に担いで、船に投げ入れるがよい」

この後、メネラオスがやさしく馬を船に入れると、最後にヘレネが乗船したのです。ヘレネが真ん中に、となりにメネラオスが腰を下ろしました。そして、ギリシャ人が二列に並んで座ると、メネラオスが声を出し、船が出航しました。

遠く沖に出ると、メネラオスは舳先に立って剣をとり、牛の喉を切り裂き、こう祈りました。
「海に住みたもうポセイドン様、またネレウスの娘ごたち、わたしと妻を無事ナウプリアの岸へ送らせたまえ」
ここに至って、われらは「だまされたぞ! 引き返せ!」と声をあげたのです。

しかし、ヘレネは「どこへ行ったのです、トロイアでの勲は」と、ギリシャ人を勇気づけます。仲間は斬り殺されたり、海に投げ込まれたりしました。

漕ぎ手たちも丸太を持ち立ち上がったのですが、ギリシャ人は剣を持っています。メネラオスは舵取りに、ギリシャを目指せと命令しました。わたしは海に飛び込むよりほかありませんでした。
コロスの長
メネラオスが王様を欺こうとは、思いもよりませぬこと。王様は変だとは思われなかったのですか?
テオクリュメノス
情けない。女のたくらみに騙されようとは。これで婚礼の夢も虚しく消えた。もう追っても無駄なようだ。しかし、いまいましい! なぜ妹テオノエはメネラオスがいることを黙っていたのか! こらしめるしかない。
従者
いけませぬ。どこへ行かれるのですか?
テオクリュメノス
正義が命じるとこへ行くまでだ。どけ、邪魔するな! 兄を裏切ったのだぞ。不届きな妹を手にかけるのだ!
従者
いいえ、誰よりも正しいお方です。ご立派な裏切りです。正しい振る舞いをされたのですから。
テオクリュメノス
おれの妻を人に渡したのだぞ。
従者
いいえ、違います。正当なご主人に渡したのです。
テオクリュメノス
誰が主人なのだ。きさまにおれのことを裁かせはせぬ。死にたいのか。
従者
ご存分に。テオノエ様を殺させはいたしませね。代わりにわたくしを。主人のために死ぬことは、召使にとっては名誉なことです。

ヘレネの兄弟ディオスクロイ、空中に現れる

ディオスクロイ
この国の王テオクリュメノスよ、不当な怒りをしずめるがよい。ヘレネの兄弟ディオスクロイが呼びかけているのだ。神なるネレイスの娘、そなたの妹テオノエは神々と父プロテウスの御心を重んじただけなのである。ヘレネはトロイアが滅んだので、その名の役を終え、この地に留まることはもはや許されぬ。

次に、我らの姉妹ヘレネに言おう。われら二人が付き添って、無事故国へ送りとどけよう。そなたは命を終えるとき、神と呼ばれ、われらディオスクロイと一緒に、人間たちに崇められよう。それがゼウス様の御心なのだ。ヘルメス神がそなたを初めて連れていったあの島は、今後ヘレネと呼ばれるであろう。
さすらい続けたメネラオスは、死んだら“幸福の島”に住まわせようというのが、神々のお定めだ。
テオクリュメノス
あなた方の姉妹に対する恨みは忘れます。また、妹テオノエも殺めることはいたしますまい。それが神々の御心なら、ヘレネの帰国がかなえられますように。数ある女たちの中にもめずらしく、気高いお心にお慶び申し上げます。
コロス
神々の御心がさまざまに顕われ
思いを超えたみわざも多い。
思いもうけたことはなかなか成らず
思われぬことを成しとげ給う。

映画『トロイ』アガメムノンとメネラオスの兄弟映画『トロイ』アガメムノンとメネラオス(右)の兄弟。『ヘレネ』のメネラオスはこんな不男でないはずです!ヘレネが愛し、操を守っているほどの男ですから。