〈イピゲネイアの犠牲〉
雌鹿を連れた女神ディアナが向こうに
パリスのヘレネ誘拐
【潜水鳥】ヘクトルと並ぶトロイアの王子アイサコスとヘスペリエ
上記の記事でご紹介したヘクトルと並ぶトロイアの王子アイサコスが潜水鳥に変身。このことを知らなかった父プリアモス(トロイア王)は、死んだのではないかと嘆いていました。ヘクトルと他の兄弟姉妹も、名前だけ記した空の墓に供物を捧げていました。
そんなおり、パリスがヘレネを連れて帰国しました。これがトロイア戦争の始まりです。
ギリシャ軍の千の艦船はボイオティア領アウリス港に集結しましたが、暴風のため足止めされていたのです。
鈴懸の木のてっぺんにある鳥の巣と大蛇
ギリシャ軍はユピテル(ゼウス)の祭壇に、供儀の捧げものを用意していました。すると、祭壇の近くの鈴懸の木に、青黒い大蛇が這い登っていきました。
この木のてっぺんには鳥の巣があり、8羽の雛鳥がいました。親鳥は抵抗するかのように、大蛇の周りをバタバタと飛んでいましたが、大蛇は羽鳥もろともに8羽の雛鳥を飲み込んだのです。そして、大蛇は木に巻きついたまま石になってしまいました。
それを見ていた予言者カルカスはこう言いました。
「喜ぶがよい! トロイアは落ちるだろう。とはいえ、われらの労苦は長期にわたるだろう。9羽の鳥は9年間を意味するからだ」
しかし、海は荒れたままです。
「これは昔、海神ネプトゥヌス(ポセイドン)がトロイアの市壁を作ったから、守っているのではないか」というものまで出てきました。
処女神ディアナの怒りとアガメムノンの決断
カルカスは、これは処女神ディアナの怒りであり、処女の生血を捧げなければならないと説きました。
ギリシャ軍の総大将アガメムノンは、娘イピゲネイアの純潔の血を捧げる決断をしました。王としての立場が、親の情に勝ったのです。
お供の者たちがすすり泣く中、イピゲネイアは祭壇の前に立ちました。彼女は臆することなく、犠牲になろうとしていました。
イピゲネイアの身代わりの雌鹿
イピゲネイアがまさに切られる時に、女神ディアナの心が折れたのでしょうか? 女神は祭壇のまわりに雲のとばりを投げかけ、イピゲネイアの代わりに雌鹿をおいたのです。
女神ディアの怒りが鎮まると、海の暴風も止みました。
こうして、ギリシャ軍の千の艦船はボイオティア領アウリスを出航し、トロイアに向かうことができたのです。
オウィディウス『変身物語』の『アウリスのイピゲネイア』はこれだけですが、ギリシャ悲劇の3大作者の一人エウリピデスが劇にしています。
イピゲネイアをアキレウスと結婚さえると呼び寄せた父アガメムノンの苦悩の決断、イピゲネイアの母クリュタイムネストラの苦しみ、アキレウスの勇気ある行動など、ぜひ読んでください。
→[ギリシャ悲劇]アウリスのイピゲネイア[1]父アガメムノンの苦悩