- トロイアの勇将キュクノスは、海神ネプトゥヌス(ポセイドン)の息子
- キュクノスの体は、剣や槍では倒せません。
- アキレウスは剣や槍でキュクノスを倒せません。怒りに燃えたアキレウスはどうしたのか?
※神の名前は、ローマ神話名(ギリシャ神話名)です。
噂の神ファーマにより、トロイア側はギリシャ軍が攻めてくることを予期していました。ギリシャ軍が上陸してくると、トロイアの英雄ヘクトルらが海岸で待ち伏せしていました。
ヘクトルの投げた槍は、ギリシャの将プロテシラオスに命中。プロテシラオスはトロイア戦争の第一の犠牲者になった将軍になりました。そして、彼の死はあらかじめアキレウスの母テティスによって予言—最初の上陸者は死ぬ—されていました。
テティスの予言はギリシャ軍の誰もが知っていましたので、船を降りようとする兵士はいませんでした。プロテシラオスはそんな状況から、自ら上陸したのです。そんな彼がトロイア戦争に出征したのは、ラーオダメイアとの結婚からわずか1日後のことでした。
ネプトゥヌス(ポセイドン)の息子キュクノス
キュクノスは、トロイアのヘクトルにつぐ武力の持ち主の一人です。ギリシャの戦士を1,000人殺したともいわれています。彼の体は剣で切ることも、槍で貫くこともできませんでした。まるで硬い鋼鉄のようです。
そんなキュクノスは、ヘクトルを探していたギリシャの英雄アキレウスと対決します。アキレウスが最初に槍を投げると、キュクノスの胸当てに命中しました。「ガン!」と大きな音がしましたが、はじき返されたのは槍でした。
アキレウスが不思議な顔をしていると、キュクノスは語ります。
「女神テティスの息子よ、あなたのことは知っている。わたしの体が傷つかないのがそんなに不思議か?」
キュクノスは、剣や槍では倒せない!
キュクノスはさらに語ります。
「わたしの武具は飾りにすぎない。この手にした盾も必要ではないのだ。この身を守る武具はなくても、無傷でこの戦場を後にするだろう。
アキレウスよ、たかが老人ネレウスの娘テティスの子とは違うのだ。ネレウスを含め、海のすべてを支配する海神ネプトゥヌス(ポセイドン)の息子、それがこのキュクノスなのだ」
キュクノスはこう言うと、槍をアキレウスに投げつけました、その槍はアキレウスの盾に突き刺さります。しかし、アキレウスの盾は青銅と牛皮9枚でできていましたので、最後の牛皮一枚のところで止まりました。
アキレウスは再度、槍をキュクノスに投げつけます。キュクノスの体は傷つきません。なんど槍を投げてもダメです。しかも、キュクノスは無防備な姿勢をしています。
アキレウスは怒り、不審に思います。槍の穂先がないのではないか? 確認しましたが、穂先はしっかりついています。
「では、俺の腕がにぶったのか? しかし、この海岸ではすでに多くのトロイア兵を殺している」
そう思ったアキレウスは、目の前の一兵卒メノイテスに槍を投げました。槍は胸当てを貫き、彼は正面に倒れます。
アキレウスは気を取り直すと、キュクノスにもう一度槍を投げます。しかし、槍はキュクノスの肩に命中しましたが、簡単に跳ね返されてしまいます。
怒りのアキレウス、キュクノスに突進!
戦車から飛び降りたアキレウスは剣を振りかざして、猛然とキュクノスに襲いかかります。しかし、剣は盾を切り裂きましたが、なんということでしょう! 剣はキュクノスの体に当たったところで曲がってしまったのです。
怒りに燃えたアキレウスは、何度も盾でキュクノスの頭を打ちます。さすがのキュクノスもうろたえ、逃げようとしました。
しかし、逃げるキュクノスの前に、野原の岩が大きくさえぎっていました。アキレウスはキュクノスを岩に押し倒すと、ひっくり返し、地面に叩きつけました。そして、キュクノスの胸を盾と膝で押さえつけ、彼の兜の紐で喉をしめつけます。
キュクノスは目の前が真っ暗になり、息絶えました。アキレウスは勝者の権利で、キュクノスの武具を剥ぎ取ると、すでに体はありません。海神ネプトゥヌス(ポセイドン)が、キュクノスを白鳥(キュクノス)に変身させたのでした。
「キュクノス=白鳥」という名には、別の説もあります。
キュクノスは女のように白い肌と美しい髪を持っていたため、そう名づけられたといいます。また、彼の母カリュケがキュクノスを海岸に捨てた時、彼は漁師に助けられ、上に白鳥が飛んでいたからともいいます。