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プロメテウスプロメテウス

アイスキュロス作『縛られたプロメテウス』No.3

プロメテウスは、イオの未来と彼女の子孫が自分を解放することを語ります。
その後、ゼウスの子ヘルメスがやってきて、ゼウスの秘密を聞き出そうとします。「プロメテウスよ、父ゼウスがお命じなのだ。父上が覇権を失おうとお前が得意になってほざくのはどんな結婚かと。謎めいた言い方ではならん。はっきり言うのだ」

この後、どう展開するのか? プロメテウス三部作の「火を運ぶプロメテウス」と「解放されるプロメテウス」が消失したのは、なんとも残念です。また、ギリシャ神話にはゼウスを倒すゼウスの子供とゼウスの覇権が終わった神話がないため、どういう風にゼウスとプロメテウスが和解したのか? もはや知りようがありません。

アイスキュロス作『縛られたプロメテウス』No.3
コロス(合唱隊)=プロメテウスの叔母にあたるオケアノスの娘たち

(黒海の北、スキュティアの荒野の涯、聳え立つ岩山のもと)

縛られたプロメテウス[3]伝令神ヘルメスの取調べ

牛になったイオの告白

イオ
お聞きください。この身を襲った嵐と、姿の醜い変わりようとは、お話をするのも恥ずかしいことですが……。

毎夜、幻がわたしの閨(ねや)を訪れて、優しい言葉で誘惑するのです。
「そなたを思う恋の矢に、ゼウスは胸を焼かれ、愛の床に結ばれようと望んでいる。それゆえ、レルネの草深い牧場へ、父親の牛小屋のあるところへ来なさい。ゼウスの眼のあこがれを満たしてやるために」

わたしはとうとう思いきって、父上に夢の話を打ち明けました。父は神託をたびたび伺いました。謎めいた神託や曖昧なお告げが多かったのですが、とうとうはっきりしたアポロン様のご託宣が父イナコスに下されました。

娘を追い出し、神に捧げたものとして地の涯にさまよわせよ。もし、いやというなら、烈火の眼を持つ雷電が、ゼウスの御手から降って来て、一族を滅ぼしつくそう

父は従うより他に道はなく、わたしを家から追い出しました。すると、わたしの姿も牛に変わり果て、アブに刺され、苦しめられ狂乱してさまよいました。途中、100の眼を持つアルゴスが追ってきて、わたしを監視するようになりました。

その後、ヘルメスがアルゴスの命を奪い、わたしはこの地にたどり着いたのです。

これがわたしの身の上。これからのわたしの苦難を明かしてください。けっして、憐れみからうその話で慰めようとなさいませんように。うその話ほど醜いものはありません。

ヘルメス、アルゴス、イオヘルメス、アルゴス、イオ

コロス
まあひどい、とんでもないこと。イオを見るにつけ、身の毛もよだつ。このような奇怪な話を耳にしようとは。
プロメテウス
イナコスの娘よ、これからどんな苦難がヘラの手から受けねばならないか、旅路の涯を知るがよい。
まず第一に、おまえはここから日の出る方に向かう。ボスポロス(牝牛の渡し)からエウロパの地を去るとアジアの里だ。だが、どう思う、神々の僭主ゼウスを。この人間の乙女を抱こうとの欲情から、こうした流浪の旅に陥れたのだ。なんともひどい求婚者だ。これでも、まだほんの序の口だがな。
イオ
私は生きていて、なんの甲斐がございましょう。この岩山から身を投げ、ひと思いに死んだほうがまし。
プロメテウス
それでは私の苦難など、とても耐えきれまい。死ぬことが許されていないのだから。ゼウスが王位を奪われるまではな。
イオ
なんですって、ゼウス様が王位を追われる時がくるのですか。誰に奪われるのですか。
プロメテウス
そうなれば、お前も喜べよう。それもゼウス自身の愚かな思慮によってだ。禍いのもとになる相手との結婚。彼女が父より強い子を生むことだろう。
イオ
ゼウス様には、その運命を逃れる術はないのですか。
プロメテウス
私がこの枷(かせ)から解かれぬかぎりは絶対にない。しかも、お前の子孫の誰かがそれをやる者と決まっているのだ。
その誰かのことか、お前の先の苦難のどちらかを話してやろう。イオよ、どちらを選ぶか。
コロス
この娘には「これから先の苦難」を。わたし達には「プロメテウス様の救い手」をお教えください。
プロメテウス
では、イオよ、果てしない逃避行を話そう。お前の心に、よく刻みつけておくのがよい。

縛められたプロメテウス縛められたプロメテウス

プロメテウスを救うイオの子孫

グライアイ三老女、ゴルゴンが住むキステネの野、ゼウスの犬グリュプス、プルトン(ハデス)の河瀬に住む一つ目アリマスポイの軍勢、黒人が住むアイティオプスの下流、そしてネイロス(ナイル)の地エジプトまでの道程をプロメテウスは語ります。
また、プロメテウスは証拠として、イオのこれまでのことも語った。その中には、イオが渡った記念として、イオニア海(ギリシャの東とイタリア南部の間の海)と呼ばれる海のこともあった。

ネイロスの河口で、ゼウスはお前を正気に戻し、色黒のエパポスを産もう。彼から四代の孫にあたる50人の娘たち(ダナイデス)は、望まぬながらアルゴスへと帰っていこう。50人の従兄たちとの結婚を逃れようとして。しかし、鳩を追う鷹のごとく追ってくる従兄たち。神は乙女らが身を任すのを惜しんで、ペラスギアの地に彼らを迎えさせる。そして、49人の花嫁は、49人の花婿を殺す。

だが、一人の娘だけは、花婿を殺せない。アルゴス王家の祖となるものだ。その後裔から大胆無敵の弓の勇者(ヘラクレス)が現れ、この苦難から私を解放してくれるのだ。こうした予言をティタン神族なる母テミスが私に話してくれたのだ。

イオ
やれやれ、なんという子孫の定め!
さあ行こう、もう行こう。
ああ、またもや、わたしの胸を突きさす痙攣と狂気!
私を刺すのは、火に鍛えた鉄ならぬ、アブの刺針。

(イオ退場)

プロメテウスを解放するヘラクレスプロメテウスを解放するヘラクレス

ゼウスの父クロノスの呪い

プロメテウス
ゼウスの父クロノスの呪いは、完全に成就されよう。私だけが、この禍いを逃れる術と手立てを心得ているのだ。だから、ゼウスには今のうちは雷火の槍を振り回させて、いい気にさせておくがよい。いずれ、怪物は雷火より強い火焔を見出すだろう。
また、大槍がポセイドンの三叉の戟を打ち砕こう。かくて、ゼウスは思い知る。支配者たると隷属するとは、どれほど違うものかということを。
コロス
どうしてあなたは怖くないのです。そんな言葉をゼウス様に投げつけて。
プロメテウス
何を恐れることがあろう、死ぬ運命を持たない私が。だが、待てよ。あそこにゼウスの下走りが見えるぞ。

奈落に落ちるプロメテウス

(伝令神ヘルメス登場)

ヘルメス
おい、知恵者だというお前、気難し屋のうえにも気難しい、その日限りの命の人間を大事にして、神々に対して罪を犯し、火を盗んだやつに言うことがある。父ゼウスがお命じなのだ。父上が覇権を失おうとお前が得意になってほざくのはどんな結婚かと。謎めいた言い方ではならん。はっきり言うのだ。私に、二度くる手間をかけさせるな。
プロメテウス
これはまた偉そうな、もったいぶった言葉だな。成り上りの新米に、答えてやるもんか。すべての神を私は憎むのだ。私のおかげを蒙りながら、不法にも私を虐待するかぎりはな。
ヘルメス
お前は私を子供扱いし、叱りつけるんだな。
プロメテウス
だってお前は子供、いやそれ以上にわきまえがない。無礼至極なこの枷(かせ)が解かれるまでは、何も喋らんぞ。
ヘルメス
どんなに説いても、所詮無駄なようだな。だが、考えてみろ。私の言葉を聞かないと、どんな災難がお前に襲いかかるか。血に飢えた大鷲が飛びかかって、お前の体を無茶苦茶に引き裂こう。黒々と血に富んだ肝臓をむさぼり食うだろう。
プロメテウス
して暗黒のタルタロスへと真っ逆さまに私の身体を投げ下ろさせよ。だが、私を死なせることはできなかろう。
ヘルメス
この男の高言は、気が狂った者の思案や言葉に聞こえる。いったいどこが狂人のと違うというのだ。どうしたら、狂気からさめよう。
(コロスに)あ、お前たちもこんな男の苦しみに同情してないで、この場所からさっさと立ち退いたがよい。容赦を知らない雷電が、お前たちまで襲ってはならないからな。
コロス
他のことをお勧めください。だってあなたの言葉は、とても我慢ができないこと。私たちは、この方と一緒にどんな不幸も受け取るつもり。
ヘルメス
なら、よく覚えておけ。災いに狩り立てられても、けっして「ゼウス様がわたしたちを不慮の災いに投げ込んだ」などと言ってはならぬ。愚かさゆえに、自分から災いに巻き込まれようというのだから。
プロメテウス
大地が揺れに揺れている。雷鳴は海の底から轟きわたり、稲妻が閃めく。大空には竜巻、逆風が。ゼウスの元から恐怖をもたらしてくる。おお、聖なる母テミスよ、見てくれ、私がどんな不正を受けているかを。

(プロメテウス、コロスとともに奈落に沈む)


※この後、どう展開するのか? プロメテウス三部作の「火を運ぶプロメテウス」と「解放されるプロメテウス」が消失したのは、なんとも残念です。また、ギリシャ神話にはゼウスを倒すゼウスの子供とゼウスの覇権が終わった神話がないため、どういう風にゼウスとプロメテウスが和解したのか? もはや知りようがありません。