- バッカス祭の夜、妹ピロメラを救う姉プロクネ
- 「お呼びの息子は、あなたの中にいますわ」と答えるプロクネ。
- ピロメラとプロクネ、テレウスは鳥に変身
※神の名前は、ローマ神話名(ギリシャ神話名)です。
バッカス祭の夜、妹ピロメラを救う姉プロクネ
バッカス祭にピロメラを救うプロクネ
姉プロクネは、ただ一つのことを思いつめていたのです。それは「報復」です。
時は2年目ごとのバッカス祭の夜……。
プロクネは頭にぶどうのツルを巻き、脇に鹿の皮を吊るし、杖を持ちます。彼女はバッカスの狂乱に見せかけて、妹ピロメラのいる羊小屋へかけ足でやってきました。
「えーほい!」大声を上げて、戸を破り中に入るプロクネ。ピロメラは呆然としましたが、バッカスの信者の服装を着せられると、館に連れていかれました。
ピロメラは、恐ろしさで震えていました。そんな妹を抱きしめようとしましたが、妹は姉への裏切りに顔を上げることもできません。弁解するにも、話すことはできないのです。
いらだつプロクネは「涙などに用はないの! 必要なのは剣! わたしはどんな罪深いことでもやってのける覚悟なの。テレウスの舌を切り取るのもよし、お前の純血を奪った当のものを剣で切り取るのもいい。殺したっていい。でもまだ、その方法が思いつかない」
そこに、プロクネの息子イテュスがやってきました。『そうだ、この手がある』。母は自分の子を見るなり、恐ろしいことを思いついたのです。「ああ、なんてお前はお父さん似なの?」
「お呼びの息子は、あなたの中にいますわ」
「お母さん!」幼いイテュスがプロクネの首に抱きつくと、彼女は母の優しさを取り戻します。怒りが挫けると、涙があふれてきます。姉は妹ピロメラの方を見て、また息子を見ます。彼女の心は復習と愛情に引き裂かれんばかりです。
「イテュスは『母さん』と甘えるし、ピロメラは『姉さん』と言いたくても言えない。ああ、わたしはどうしたらいいの。わたしを二重に裏切った夫テレウス、わたしはなんという男に嫁いだのだろうか?」
ついに意を決したプロクネは息子を抱えると、高くそびえる館の上階まで連れて行きます。息子も母の殺意を感じ、手をさしのべて「お母さん、お母さん」と抱きつきます。
しかし、母は剣で幼子の脇腹を刺し貫きます。追ってきたピロメラも刃でイテュスの首を切り裂きました。それからも、まだかすかな息があった幼子を二人は滅多刺しにしたのです。
その後、一部の肉を鍋でぐつぐつ煮はじめ、一部を串刺しにしてじゅうじゅう焼きます。部屋は、一面血みどろになりました。
準備が整うと、プロクネは特別な晩餐だと夫テレウスだけを食卓に招きました。夫は食事も進み、「イテュスをここに呼んできてくれ」と、妻に言いつけます。
プロクネは「お呼びの息子は、あなたの中にいますわ」と答えます。テレウスはあたりを見まわし「どこにいるのだ?」と問います。そこへ髪を殺戮の血で濡らしたピロメラが入ってくると、イテュスの首を父親に投げつけたのです。
テレウスに息子イテュスの首を投げるピロメラ
ピロメラとプロクネ、テレウスは鳥に変身
テレウスは、大声を上げて食卓をおしのけ、復讐の女神に訴えます。自分の胸を切り裂いて、我が子の肉を吐き出したいと願うかのように「ああ、俺は息子の哀れな墓なのだ!」と泣きじゃくります。
さらにテレウスは剣を抜き、プロクネとピロメラ姉妹に切りかかりました。
しかし、ピロクネとピロメラはまるで宙を飛んでいるかのように逃げだしました。実際、姉妹には翼が生え、鳥になって飛んでいたのです。しかも、一羽の鳥は、胸を血で真っ赤に染めています。
テレウスも悲しみと復讐心から、二羽の鳥を追いかけます。そして、彼もヤツガシラという鳥になって飛んでいたのです。ヤツガシラという名の鳥に、その姿はテレウスそのもののでした。
一説では、プロクネはナイチンゲールに、ピロメラはツバメになったということです。この災難を知った姉妹の父親パンディオンは死期を早めたということです。
ヤツガシラ