- ピロメラ、トラキアに到着。乱暴・監禁される残酷な運命
- テレウスの嘘と遺体のないピロメラの墓
- ピロクネの思いを込めた織物
※神の名前は、ローマ神話名(ギリシャ神話名)です。
ピロメラを待ち受ける残酷な運命
ピロメラを乗せた船が、テレウスの故郷トラキアに到着。
しかし、姉プロクネの待つ館にピロメラが会いに行くことはありません。彼女は森にある羊小屋に、テレウスに連れ込まれたからです。
「姉さんはどこなの?」
と問いかけるピロメラ。父の名を、姉の名を呼び、神々に訴えても無駄でした。テレウスは、1人でいる娘を暴力で征服したのです。
ピロメラは生きていることさえ不思議に感じるほど、呆然としていました。しばらくして、気をとりなすと髪をかきむしり、テレウスに食ってかかりました。
「この野蛮人! 父の頼みも、姉の真心もあなたは踏みにじった。わたしの純潔を、将来夫婦になることも奪った。わたしは、姉の敵になってしまった。どうしてわたしの命を奪わないのですか? こうなる前にそうしてくれれば、汚れなき体で黄泉の国に行けたでしょうに。
でも、神々がこれを見ていらっしゃるなら、あなたはいずれ罰を受けます。わたしは断じてあなたを許しません。わたしは恥になろうとも、人の前であなたの行いを語ります。この森に閉じ込められたままなら、真実の叫びをひびかせます。わたしの叫びで、岩も動きましょう。きっと神様も聞かれていらっしゃることでしょう」
舌を切られるピロメラと体のないお墓
テレウスは、ピロメラの言葉に怒りと恐怖を感じました。剣を引き抜くと、彼女を後ろ手に縛り上げました。ピロメラは殺されることを本望と思い、首を前に出し、なおも断罪の言葉をしゃべり続けようとしたのです。
テレウスはピロメラの舌を鉗子で引き出すと、剣で切って落としました。落ちた舌は、ピクピクと動いていました。そしてあろうことか、またテレウスはピロメラを犯したのです。
何事もなかったようにテレウス王は館に帰ると、待ちわびている王妃プロクネに、涙ながらに作り話をしました。「妻よ、残念なことに、ピロメラは航海の荒海にさらわれてしまった。わたしが付いていながら申し訳ない……」
プロクネは黄金のまばゆい衣服を肩から引きはがすと、黒い喪服に着替えました。そして、体のない空の墓を建て供物を捧げると、妹の運命を嘆きます。こんな姉を見ている妹の霊は、いるはずもありませんが。
ピロクネの思いを込めた織物
こうして、一年間が過ぎて行きました。
「なんとか、姉さんにことの真相を伝えるには、どうしたら良いのだろう」兵が見張っている羊小屋に閉じ込められたピロメラ。舌がないので、叫ぶこともできません。
しかし、逆境は人に知恵を授けます。「そうだ、織布に告発の文字を縫いつけよう」。さっそく、はたおり機に糸をかけ、白地に緋色の文字を織り込んで、召使の女に身振りで王妃プロクネに持って行くよう頼みました。
何も知らない召使の女は、織布を王妃に届けました。プロクネは織物を広げと、自らの悲運を告げる妹の物語を読みました。
あまりの真相に、言葉を失いました。泣き叫ぶわけでもなく、口を押さえ、じっと一点を見つめていました。テレウスの暴力に毅然とした態度をとった妹ピロメラ。まさに彼女と同じ血が流れている姉プロクネは、ただ一つのことを思いつめていたのです。それは「報復」
時は2年目ごとのバッカスの祭りの夜でした。