- ペレウスの牛たちを襲う凶暴なオオカミの出現
- オオカミは殺されたポコスの母親・女神プサマテの復讐です。
- 女神プサマテ、牛に食らいつくオオカミをそのままの姿で大理石に変える。
※神の名前は、ローマ神話名(ギリシャ神話名)です。
ペレウスの牛たちを襲う凶暴なオオカミの出現
「ペレウス様、一大事です」
トラキスの王ケユクスがペレウスにタカになった兄ダイダリオンの話をしている時、ペレウスの家畜番オネトルが慌ててやってきました。
「なんでもよいから、話すがよい」とペレウスが答えるそばで、ケユクス王は不安な眼差しをペレウスに向けました。
家畜番オネトルは報告しました。
「昼頃までに、わたしは疲れた牛たちを入江の岸に連れていきました。牛たちは海に入ったり、砂浜に寝そべったりしてくつろいでいました。
海辺の近くには、太古の森の木々が陰を落としている中に寂れた社があり、海神ネレウスとその娘たちにささげられています。この社の近くにある沼から、メリメリと大きな音を出してオオカミが飛び出してきました。凶暴な目をして、口には真っ赤な血のりがついています。
オオカミは腹が減っているわけではなく、牛たちをすべて傷つけようとしました。わたしたちは反撃しましたが、その牙で死んだ者も出ました。ペレウス様、早く対抗しないと、すべての牛が殺されてしまいます」
オオカミは殺されたポコスの母親・女神プサマテの復讐
ペレウスの家畜番オネトルの報告にも、ペレウスは慌てることはありませんでした。彼にはこのオオカミが自分で殺したポコスの母親・海の女神プサマテの復讐である、とわかっていたからです。
事情を知らないケユクス王は「武装して、槍を取れ!」と部下に命じると、自分も出かけようとしました。そこへケユクス王の妃アルキュオネが現れ、王の首にすがりつくと涙ながらに願いました。
「兵を送るのはよいのですが、あなたはここにいてください。あなたお一人の命ではありません。わたしのこともお考えになってください」
ペレウスはアルキュオネに言いました。
「王妃よ、ご心配には及びません。それとケユクス殿、オオカミに対して武器を取ることはありません。それより、女神プサマテに祈らなければなりません」
女神プサマテ、牛に食らいつくオオカミをそのままの姿で大理石に
ペレウス一同は高い灯台に上がると、暴れ回っているオオカミを見下ろしました。そんな中、ペレウスは両手を海岸の方へ差しのべると、海の女神プサマテに祈りました。「どうかお怒りを鎮め、お助けいただけますように」
しかし、女神プサマテが彼を許すことはなく、オオカミが虐殺を止めることはありません。とうとうペレウスの妻である女神テティスが、夫の代わりに願いました。
こうして女神プサマテは許すことを承諾したのですが、凶暴なオオカミは雌牛の頭を食いちぎり、その首に食らいついています。女神は食らいついているオオカミを、そのままの姿で大理石に変えてしまいました。
この後、ペレウスはこのトラキスでは許しを得られないと考え、亡命の旅へ再出発しました。そして、マグネシアの地に着くと、イオルコスのアカストスによって殺人の罪をようやく清められたのです。