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メデイアと子供たちメデイアと子供たち

エウリピデス作『メデイア』No.2

アテナイの王アイゲウスに、自分の身を受け入れてくれるよう頼んだメデイア。とうとう、魔女の恐るべき復讐の計画が語られます。
「この私を弱い女、おとなしい女などと思ってはいけません。敵には容赦がなく、親しいものには情を尽くす私!」
なんと、子供を殺すのは情、と言っているメデイア。

それを聞いたメデイアに同情する街の女たち(コロス)は、子を殺すことを止めるよう言います。しかし、「そうするのが、夫を苦しめる一番の道」と言ってのけるメデイア。

エウリピデス作『メデイア』No.2
コロス(合唱隊)=コリントスの女たち

(コリントスのメデイアの住居の前)

メデイア[2]魔女のおそるべき復讐の計略

メデイアの苦情とイアソンの弁解

(イアソン、登場)

イアソン
クレオン王に雑言など吐かねば、追放を招くこともなかったのに。それでも、お前の身を案じ、こうしてやってきたのだ。
メデイア
おお、極悪の極悪人、恥知らず! 私がどれだけ、あなたに尽くしてきたことか。
あなたがアルゴー船に乗って私の故郷コルキスにやってきた時、数々の至難を助けたこと。あなたの故郷イオルコスであなたの悪徳な叔父ベリアス王を彼の娘に殺させたことなどなど、もうお忘れになって。子供もあるのに、私を捨てて王の娘と結婚するなんて。私は、この先どこへ行けばいいのでしょう。
イアソン
アルゴー船の遠征に関しては、名もない辺境の地から、このギリシャという大都会に連れてきてやったではないか。クレオン王の娘を娶るのは、イオルコスを追われた我らが後ろ盾を手にし、安心してここで暮らせることを考えてのこと。そなたを嫌いになったからではない。新らしい子ができれば、そなたとの子を含めて一族郎党みな助け合うことができるではないか。これが、間違ったことであろうか。
女というものは、とかく目の前のことしか考えない。
コロスの長
イアソン様、見事な屁理屈ですこと。それでも、奥様を捨てるのは正しいことではありません。
メデイア
もし、悪いと思っていないのなら、なぜ最初に私を納得させてから、縁組をすればよかったのでは。
イアソン
話したとて納得してはくれまい。この縁組は、女に惹かれたからではない。そなたと子供のためを思ってのこと。
メデイア
悲しい暮らしなら、豊かな生活などいりません。
イアソン
これ以上の話し合いは無駄だな。何か私のもので欲しいものがあれば何でもさし出そう。また、知り合いにも手紙を書こう。異国に行っても役立つはず。
メデイア
悪人からの贈り物や助けなど、余計なお世話です。
イアソン
我をはって好意を受けぬ。いっそう辛い目を見るだけになろう。

(イアソン、退場)

メデイア
いってらっしゃい、いやとおっしゃるような縁組にしてやるから。

アテナイのアイゲウス王の救いの手

(アテナイのアイゲウス王、従者を連れて登場)

アイゲウス
これは、メデイア殿。ご機嫌いかがですか。
メデイア
これはアイゲウス様、お久しぶりです。どちらからお越しになりました。
アイゲウス
アポロン様のご神託を伺っての帰りです。
メデイア
なぜ、またアポロン様のご神託を。
アイゲウス
どうすれば、子宝を得られるかと。よくわからぬ神託でな。故郷の家へ着くまでは『革袋の突き出た口を、ほどいてはならぬ...』と。そこで、この地のピッテウス殿に意味を伺おうと思ってな。ところで、メデイア殿、お顔がやつれているようだが……。
メデイア
ああ、何から話せば良いのか……。
じつは……夫イアソンが、別の女を妻とするのです。その上、私と子供はこのコリントスの地から、今日限りで追放の身。
アイゲウス様、あなたに一つお願いがあります。どうか、この不憫な私たちをあなたの国で迎えてくださいませんか。それに、私は子宝が恵まれる薬も処方できますし、きっとお役にたてます。
アイゲウス
いいでしょう、子宝のためにも。
ただし、そなたを私が連れ出すことはできぬ。立場があるからな。そなたの方から、アテナイに来て欲しい。さすれば、良い待遇をし、けっして誰にもそなた達を引き渡しはせぬ。
メデイア
ありがとうどざいます。ご無事なご旅行を。私は思うことを済ませ、望みを遂げてから、あなたの国に参ります。

(アイゲウス王、従者を連れて退場)

『革袋の突き出た口を、ほどいてはならぬ...』
ピッテウスは神託の意味を理解し、アイゲウスを酔わせて自分の娘アイトラーと寝させます。するとその夜、アイトラーのもとにポセイドーンもやってきて、アイトラーはポセイドーンの子テーセウスを生んだとされています。

メデイアの計略

メデイア
これで、行く所も決まったし、私の計略をみなさま(コロス)にお話ししましょう。誰か召使をやって、夫イアソンにここへ来てもらいましょう。そして……、

今はもう、あなたの心がよくわかりました。クレオン王家とのご縁組も私や子供のためと納得しました、としおらしいことを言って、子供たちをここに居られるように頼むのです。

これが計略です。クレオン王の娘を殺めるためなのです。子供たちには、薄衣の打掛と黄金の冠をもたせ、追放を免れるよう娘の元へ送ります。この打掛を身につけようものなら、娘の身に触れた人ともども命を落とします。そのような毒を打掛に塗っておくからです。

ああ、しかし、この先は話す気はせぬ……。次には、我が子供たちまで手にかけようというのだから。この地に残った我が子を、誰の手にも、夫の手にも渡すことはできない……こうして、私は子殺しの罪を逃れてこの地を去っていくのです。この私を弱い女、おとなしい女などと思ってはいけません。敵には容赦がなく、親しいものには情を尽くすのが私!

コロスの長
そんなことはなさらぬよう、お止めいたします。我が子をお手にかけるというのですか。
メデイア
そうするのが、夫を苦しめる一番の道。
コロスの長
あなたご自身も、惨めな女となりましょう。
メデイア
構いませぬ。私の心は決まったのです。今更、何を言っても遅いのです。
(召使に)さあ、行って、人でなしのイアソンをお連れしておくれ。

(召使、去って行く)

メデイア[3]わが子を殺してまでするイアソンへの復讐