- アテナイに帰ったケパロス、プロクリスの操を試す
- プロクリス、ケパロスの仕打ちに無言で家を出る
- 女神ディアナ(アルテミス)からいただいた不思議な槍と犬のライラプス
※神の名前は、ローマ神話名(ギリシャ神話名)です。
帰ったケパロス、プロクリスに近づく
アテナイの使者ケパロスは、アイギナ島アイアコス王の末子ポコスに話し続けます。
「曙の女神アウロラ(エオス)に開放されたわたしは、アテナイの自分の館の前に着きました。館は女神に連れ去られたときと同じで、何も変わっていませんでした。
いろいろな理由を考えた末、なんとかプロクリスに会うことができました。彼女は、行方のしれない主人を案じていました。でも、わたしの変わった姿に、気づくこともありません。
ポコス殿、想像してみてください。悲しみをけなげに耐えている彼女がどんな美しく見えたことか!
そんな妻を見て、わたしは『妻の操を試してみよう』ということを忘れるところでした。すぐにもプロクリスを抱きしめ、口づけしたいと思いました。でも、その気持ちをなんとか抑えたのです。
わたしはなん度も贈り物をして、なんとか口説こうとしたのです。しかし、彼女はその度に言います。『わたしはひとりだけのものです。あの人がどこにいても、あの人ひとりだけの喜びをとっておくのです』
ふつうの人なら、これで操の証明には十分でしょう。わたしは、ここで止めておくべきでした」
ぐらついたプロクリス、無言で家を出る
ケパロスは、ポコスに話し続けます。
「『あなたとの一夜のためなら、全財産を捧げても悔いはない!』とさらなる贈り物をしたのです。ついに、わたしは妻プロクリスをぐらつかせたのです。そして、叫びました!
『わたしは世にも哀れな見せかけの誘惑者だ! 目の前にいるのは、お前の夫なのだ。なんという不実な女。言い逃れはできまい!』
プロクリスは恥ずかしさに打ちひしがれて、無言で家を出ていきました。さぞかし、わたしを恨んだことでしょう。それからは、男をさけて山や森をさまよい、女神ディアナ(アルテミス)のように狩猟にだけ励んだのです。
わたしは妻プロクリスへの思いと消失感に苦しみました。『わたしだって、あれほどの莫大な贈り物をされたら、同じ罪を犯しただろう』と。わたしが悪かったことを自認し、彼女に許しをこいました」
譲られた不思議な槍と犬ライラプス
プロクリスから槍とライラプスを贈られるケパロス
ケパロスは、ポコスに話し続けます。
「プロクリスはわたしを許してくれました。館にもどってくれ、それから元のように幸せな日々が始まったのです。そのときに、この不思議な槍、女神ディアナ(アルテミス)からいただいた槍をわたしに贈ってくれたのです。
また、槍と一緒にの犬ライラプスも贈ってくれました。女神が『走ることにかけては、絶対に負けない犬ですよ』と言われたそうです。
この犬には、驚くべき不思議な物語があるのです。アテナイの北西にあるテーバイ市の事件です。
オイディプスが解いたスフィンクスの謎の後の災いが、荒々しい山狐です。田畑を荒らされる百姓たちは恐れ、犬やワナで捕らえようとしました。しかし、この素早い山狐は、難なく逃げてしまうのです。
そこで、百姓たちから『この山狐を退治してほしい』と依頼されましたの出番です。
山狐と追うライラプスは速すぎて、人の目では捉えることができないほどでした。わたしは丘に上がり見ていましたが、とても決着がつきそうもありません。だから、わたしは、的を外すことがない槍を手にしたのです。
すると、山狐と追うライラプスは石像に変わってしまったのです。どこかの神が、どちらにも負けて欲しくはなかったのだと思います」
とうとう、ポコスが尋ねました。「ところで、ケパロス殿、『この槍が涙を誘うのです』と言われた理由をお教えください」