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このギリシャ・ローマ神話3つのポイント
  1. メルクリウス(ヘルメス)は、生まれた日にアポロンの牛を50頭盗みました。その手口は、じつに巧妙です。
  2. それをたまたま見ていた番人の老人バットス。メルクリウスは、彼を1頭の雌牛で買収します。その後、機転をきかせた神は、別人となってバットスに話しかけます。
  3. メルクリウスは、不誠実なバットスを石に変身させます。その石は「密告の石」と呼ばれるようになります。
    ※神の名前は、ローマ神話名(ギリシャ神話名)です。

アポロンの牛50頭を盗んだメルクリウス

ケーリュケイオンの杖を持つメルクリウス(ヘルメス)ケーリュケイオンの杖を持つメルクリウス(ヘルメス)

メルクリウス(ヘルメス)は、アポロンの牛50頭を盗みました。なんと、早朝に生まれたメルクリウス、昼にゆりかごを抜け出して行った盗みだといいます。

その時、メルクリウスは牛を後ろ向きに歩かせて、牛たちがどこに行ったのかわからなくしたのです。実に巧妙な手口で、いかにも盗みの神の面目躍如といった話。もっとも、アポロンは音楽に夢中になっていた時のことで、牛たちの監視がゆるんでいたのですが。

この時、この盗みを見ていた老人がいました。バットスという近所の老人です。

メルクリウスはバットスを買収

老人バットスは、富裕なネレウスの森や牧草地で牛を管理していた番人です。

メルクリウス(ヘルメス)はバットスを警戒して、こっそり取引を申し出まます。「なあ、爺さん。誰かが牛を探しに来たら『知りません』と答えてくれないか。お礼に、この雌牛をあげるから」

雌牛を受けとったバットスは、道のわきの石をさして答えました。「安心して行きなさい。わしが喋るくらいなら、この石があんたの盗みをばらすでしょう」

不正直なバットス「密告の石」になる

メルクリウス(ヘルメス)は立ち去るふりをしました。しばらくして、別の姿になり声をかえて、バットスにたずねます。

「あなたは、ここにおいででしたか? でしたら、牛たちがこの辺を通るのを見ませんでしたか? わたしの牛たちが盗まれてしまったのです。どうか、お力添えをいただきたい。お礼に、この雄牛と雌牛をさしあげましょう」

お礼が倍になったので、バットスは「その牛たちは、あそこに見える山裾にいますよ」と答えました。メルクリウスは、笑って言いました。「あんたは、不誠実なお人だ。わたしを当のわたしに売ろうとするのですね」

そして、老人バットスを固い石に変えてしまいました。この石は、今でも「密告の石」と呼ばれています。

メルクリウスの出生とアポロンの竪琴

メルクリウス(ヘルメス)は大神ユピテル(ゼウス)とマイアの子。マイアは、巨人アトラスとプレイオネの7人の娘たちプレイアデス(昴-すばる)の1人。また、カリストが熊にされた後、その子アルカスを育てたのは彼女だといいます。

ユピテルは伝令の神を作るため、妃ユノ(ヘラ)に気付かれないように夜中こっそり抜け出し、マイアに会いに行くことで泥棒の才能を、ユノに隠しとおすことで嘘の才能を、メルクリウスに与えたのです。

メルクリウスとアポロンの和解

占いによりメルクリウスが犯人だと知ったアポロンは彼を見つけ、牛を返すように迫ります。

しかし、メルクリウスは「生まれたばかりの自分にそんな盗みなどできるわけがない」と嘘をつきます。ユピテル(ゼウス)の前に引き立てられても「嘘のつき方も知らない」と弁明。ユピテル、さぞ心の中でほくそ笑んだことでしょう。

それでも、ユピテルは牛たちはアポロンに返すようにすすめます。メルクリウスは牛を返しますが、アポロンは納得がいきません。メルクリウスは生まれた直後(牛を盗んだ帰りとも)に洞穴で捕らえた亀の甲羅に羊の腸をはって作った竪琴を奏でました。

竪琴が欲しくなったアポロンは、竪琴をえてメルクリウスを許し、さらに彼が葦笛をこしらえると、友好の証として自身の持つケーリュケイオンの杖をメルクリウスに贈ったといいます。

アポロンとメルクリウスアポロンとメルクリウス(ヘルメス)