※本ページにはプロモーションが含まれています。

兄ポリュネイケスを弔うアンティゴネポリュネイケスの遺体

アイスキュロス作『テーバイ攻めの7将』No.3

テーバイ攻めの7将、ついに決着。
オイディプスの息子ポリュネイケスとエテオクレスの両者はともに死に、父オイディプスの呪いが成就しました。ライオス、オイディプス、ポリュネイケスとエテオクレスの三代にわたった悲劇。しかし、不幸はまだ続くのです。
アンティゴネとイスメネはまだ生きていますが、ポリュネイケスの埋葬をテーバイ市は許しません。兄を葬ろうとするアンティゴネ。その物語は『アンティゴネ』へと続きます。果たして、二人の姉妹の運命は?

アイスキュロス[3]兄弟ポリュネイケスとエテオクレスの死

アイスキュロス作『テーバイ攻めの7将』No.3
コロス(合唱隊)=テーバイの乙女たち
オイディプスの息子=兄ポリュネイケス(アルゴス勢)/弟エテオクレス(テーバイ王)

(テーバイ城内の広場。外には敵のアルゴス勢)

テーバイ攻めの7将、戦いの結果

コロス
三代までもつづいている
この争いはお子たちの破滅でございます。
父オイディプスの呪い、その復讐の女神が
怒りの呪誼を果たしはせぬかと心配です。

オイディプスの父ライオス様が三度まで
『国を救うつもりならば、子なくして世を去らねばならぬ』
と宣べられたアポロン様に逆らって、
おのれの勝手な欲望に負けて、イオカステ様と
オイディプスをもうけたことがすべての原因!

(使者、登場)

使者
町の乙女たち、ご心配なさるな。この町は負けなかった。城壁が、守ってくれたのです。我らの頼もしい将たちが守ってくれたのです。
6つの門は上々でしたが、第7の門だけはアポロン様がご兄弟を懲らしめました。
コロスの長
おお、聞かなくても、私たちにはその不幸がわかります。
使者
町は救われましたが、ご兄弟エテオクレス王とポリュネイケスは父の呪いにたおれました。
コロス
おお、大いなるゼウス様、テーバイの守護の神様
この町をお守りくださいました将たち。

喜びに、勝どきをあげましょうか?
それとも、悲しいご不運なご兄弟を歎きましょうか?

一族にまつわるオイディプスの呪い!
冷たい痛みがわたくたちの胸を貫きます。
不幸にも血だらけの骸となって、死んで行かれた。

(エテオクレスとポリュネイケスの死体、運ばれてくる)

コロス
ご兄弟に歎きの歌を唱えるために、
ほれ、あそこに悲しみを湛えた表情の、
アンティゴネとイスメネ様が見えまする。

アンティゴネとイスメネの悲しみ

(アンティゴネとイスメネ、登場)

アンティゴネ
おお、この苦しみ。
イスメネ
おお、この禍い。
アンティゴネ
おお、人の中でも一番の悲しいお二人!
イスメネ
おお、狂愚につかれた私たちの兄たち!
アンティゴネ
おお、どこの地にお二人を葬りましょうか?
イスメネ
いちばん大事にされるところに。
アンティゴネ
おお、父上のお側に眠る悲しみとなりましょう。

弟エテオクレスは国葬、兄ポリュネイケスは鳥葬

(布告使、登場)

布告使
このテーバイの町民の意見と評決とを布告するのがわたしの役目。
これにあるエテオクレス殿は、国に対する忠誠ゆえに、この地に手厚く葬ることにあいなった。敵を憎み、この国での死を選び、父祖の神殿をけがすことなく、名誉の死に遂げられたからだ。

だが、ポリュネイケスの骸は葬らず、犬の餌食にほうり出すと決まった。この男がよその国の軍勢を率いて、この国を取ろうとしたからだ。テーバイの神々への汚れは死んでも消えぬであろう。それゆえ、この者は鳥葬の礼に、恥さらしの報いを受け、いかなる手もその身に土をかけてはあいならぬ。歎きで礼もつくさず、近親者の野辺の送りの礼も許さぬ。

アンティゴネの決意

アンティゴネ
わたしは支配者たちへはっきりと言います。誰一人ほかに一緒に兄ポリュネイケスを葬ってくれる者がなくとも、わたくしは葬ります。どんなに危い目にあってもかまわいませぬ。国命に背いても、恥とも思いませぬ。
お気の毒な母上、ご不幸な父上、そこから生れたわたしたちの同じ腹の絆は不思議なもの。ポリュネイケスの埋葬とお墓は、女であってもこのわたしが、亜麻の衣の懐に土を運んでも、造ってみせます。誰にも反対はさせません。
布告使
国の布告をないがしろになさらぬよう。
アンティゴネ
無慈悲な布告を、わたしに押し付けないでください。
布告使
破滅を遁れたばかりの民衆は厳しく、ポリュネイケスに対して無慈悲でございますぞ。
アンティゴネ
無慈悲でもかまいません。きっと葬ってみせます。
布告使
それでは、国が憎む男に葬礼の誉れを与えようとするのだな?
アンティゴネ
兄はひどい仕打ちをうけて、ひどい仕返しをしただけのこと。
布告使
とはいえ、一人の代りにテーバイ人に仕返ししようとした。
アンティゴネ
復讐の女神は、最後に口を閉じます。わたしはこの人を葬ります。
布告使
よろしい、お好きなようになさるがよい。ですが、おれは「ならぬ」とはっきり申しましたぞ。

コロス

(エテオクレスの死骸に)
あなたには、きっと大勢が歎いてくれるでしょう。
しかし、哀れなポリュネイケス
たった一人の妹の挽歌の声に送られて
黄泉の国へお立ちになりましょう。

ポリュネイケスを歎く者を、お上が仕置きしようとしまいと、
わたくたちは野辺の送りに従いましょう。
これはわれらテーバイ一族の悲しみ、
それにお国の決定事項は、その時によって正義が変わますから。

(おわり)『アンティゴネ』へと物語はつづきます

→ アンティゴネ[1]叔父の新王クレオンへの反逆