- 妖精サルマキスがメルクリウス(ヘルメス)とウェヌス(アフロディテ)の子を見初めます。
- サルマキスはその子と永遠に一つになることを神々に願い、2人は1人のヘルム=アフロディトス[男女]となります。
- それ以後、サルマキスの泉に入ったものは、みな柔らかくなり[男女]になってしまうのです。
※神の名前は、ローマ神話名(ギリシャ神話名)です。
両親の美を体現した少年と妖精サルマキス
妖精サルマキス
ミュニアスの娘レウコノエの『太陽神とレウコトエ。ひまわりに変身したクリュティエ』の物語が終わると、最後にアルキトエが話すよう催促されます。
妖精サルマキスの泉に入ると、どうしてたくましい男たちが骨抜きになって弱々しくなってしまうのか? お話しますね。
メルクリウス(ヘルメス)とウェヌス(アフロディテ)の息子ヘルム=アフロディトスは、イダの山の洞窟で水の精によって育てられました。両親から美を受け継いだ彼は、とても美しい少年でした。彼は15歳になると、故郷のイダの山を去って、見知らぬ国、好きな河を見みようと出かけました。
ある日、リュキュアに近いカリアで、彼は泉を見つけました。その泉には、葦や井草も水草も生えていません。とても澄んだ透明な水があるだけだったのです。
いっぽうこの泉に住んでいたのが妖精サルマキス。他の妖精に「長槍や弓をとって野山を走り、女神ディアナ(アルテミス)様のように狩りをしてみたらどう」と言われても、少しもその気になりません。泉に映った自分の髪をとかしてきれいに見せることが、彼女の好みだったのです。
また、サルマキスは薄衣をまとい、木の葉や草の上に寝転んでいたり、花を摘んだりすることが大好きな妖精だったのです。
そんなある日、サルマキスは少年ヘルム=アフロディトスを見かけ、すぐに彼に落ちました。
少年を見初めた妖精サルマキス
サルマキスは身なりを整えると、少年ヘルム=アフロディトスに話しかけました。
「神様クピドのようなお美しいお方、さぞかしご両親やご兄弟は幸せ者ですこと。そして、一番幸福なのは許嫁者ですわ。そんな方がいましたら、わたしは浮気相手でもかまいませんことよ。もし、いらっしゃらなけば、わたしたち結婚いたしましょう」
まだ、愛を知らない少年は顔を赤くしました。サルマキスには、そんなうぶな彼がかえって美しく見えました。彼女は接吻でもと彼に近づき、少年の首に手を回そうとします。
「やめてったら!」と少年。「でなければ、きみともこの泉ともさよならだ!」
「どうぞ、お好きなように」と言って、サルマキスは去るふりをして、近くの茂みに身を隠しました。少年は安心して近くを歩きまわった後、水の中に足を入れました。その冷たさに心を奪われ、衣服を脱ぎはじめました。
少年のなんという美しさ! 少年は水の中に入りました。
少年と一体になる妖精サルマキス
「わたしの勝ちよ、とうとう手に入れたわ!」サルマキスは、もはや居ても立ってもいられなくなりました。自らも衣服を脱ぎ、水の中に飛びこみました。
少年に近づくと、無理やり接吻して抱きしめました。少年は懸命にこばみますが、「あがくといいわ、いたずら小僧さん。逃げることなどできはしないわ」そう言うと、サルマキスは体を押しつげ、隙間が出ないほど全身をぴったり合わせます。
「神様、どうかお願いです。いつまでも2人をこのままにして、引き離さないでくださいますように!」。神様は、サルマキスの願いを聞き入れました。2人の体は混じり合い、1つの体になったのです。そして、男でもなく、女でもなく、どちらでもあるという[男女]になったのです。
ヘルマ=アフロディトスは「お父さん、お母さん! 息子の願いをどうか聞きとどけてください。この泉に入るものは、出るときにはみんな[男女]になっていますように! この水に触れるやいなや、体が柔らかくなってしまいますように」
メルクリウス(ヘルメス)とウェヌス(アフロディテ)は息子の願いを聞き入れ、不浄の魔力をこの泉に与えたのです。
アルキトエが話した終えた後に、ミニュアスの3人の娘たちはコウモリに変身したのです。