- 女神ケレス(デメテル)の祭りの夜、父と娘が結ばれる
- ミュラの乳母のおせっかい
- ウェヌス(アフロディテ)に愛されるアドニスの誕生
※神の名前は、ローマ神話名(ギリシャ神話名)です。
女神ケレス(デメテル)の祭りの夜
豊饒の女神ケレス(デメテル)の祭りの日。
信心深い女たちは白い服を着て、九夜の間「愛の喜び」すなわち男との接触をタブーとします。キニュラス王の妃ケンクレイスも祭りに参加していました。ですから、祭りのあいだ、王はひとり寝をしているのです。
王が酔っている時、おせっかいの乳母が話しかけます。
「王様に首ったけの美しい乙女がおります」
「年はいくつだ」
「ミュラ様と同じです」
「では、連れてまいれ!」
乳母はミュラのところに戻ると言いました。「お嬢さま、お喜びください。もう結ばれたのも同然です」
沈んでいたミュラは、心配しつつも嬉しくなりました。
その夜、星たちは黒い雲におおわれ姿を消しました。ミュラは歩いているうちに、三度つまずき、引き返そうかと思いました。フクロウも、不吉な鳴き声を三度あげました。それでも、ミュラは乳母の手にひかれ、とうとう父の部屋の前までやってきたのです。
※右バックに2人の男女が走っています。キニュラスとミュラです。このように違う時間を1枚の絵で表現することを「異時同図法」といいます。
父キニュラスと娘ミュラの夜
乳母がドアを開けると、キュニラス王は「こちらへ」と声をかけました。ミュラは怖くなり、ひざはガクガクふるえます。
しかし、乳母がミュラを寝台まで連れてゆき、父親に渡したのです。
「キュニラス様、お受け取りください。この乙女はあなたのものです」
こうして、忌まわしい父と娘の密会は始まり、娘は父の子を宿したのです。次の夜も、その次の夜も、罪はくり返されます。
やがて、キュニラスは乙女の素性を知りたくなりました。ある夜、父は明かりを用意していたのです。
激怒するキュニラス! 剣を取りあげると、逃げ出すミュラ!
アドニスの誕生
9ヶ月の間、ミュラは荒野を逃げ歩きました。しかし、お腹の子が大きくなり、もう歩けません。
「ああ、神様、罪人の声を聞いてくださるなら、この世で犯した罪を、あの世に持って行きたくありません。ですから、この二つの国からわたしを追い出してください。この人の姿を変え、生をも、死をも取りあげてください」
言い終わらないうちに、ミュラの足は土におおわれ、根となり横に深く伸びていきます。その根に支えられて、からだは幹になりました。骨は木部となり、血液は樹液となり、皮膚はかたい樹皮となり、大きくなった腹部をおおいます。
それでも泣いているミュラ。温かい滴が木から流れおちます。その滴は「没薬(ミュラ)」となったのです。
また、木は生みの苦しみから、もだえています。慈悲ぶかい「助産神(ルキナ)」がそばに立ち、手を当てて安産のまじないを唱えます。木に割れ目が生じ、中からひときわ美しい男の子が生まれでました。
大きくなってウェヌス(アフロディテ)から愛されるアドニスの誕生です。
没薬の樹木から生まれたアドニス