- アポロンの神託とアタランタの死の徒競走
- ヒッポメネスへの愛と心の迷いに気づかないアタランタ
- ウェヌス(アフロディテ)、ヒッポメネスに黄金のリンゴを授ける
※神の名前は、ローマ神話名(ギリシャ神話名)です。
アポロンの神託とアタランタの死の徒競走
「凶暴な獅子にも近づいてはいけません。わたしは獅子という動物が嫌いなのです」
美の女神ウェヌス(アフロディテ)は、アドニスの胸に頭をあずけながら言いました。
「どうして嫌いなの?」と、彼は問います。
ウェヌスは「アタランタとヒッポメネス」の話をしはじめました。
アタランタ
ある日、アタランタは夫を得るかどうかを神託に乞いました。アポロンは、こう答えました。
『アタランタよ、おまえに夫はいらない。結婚はさけるべきだ。が、さけられずに、おまえは生きながら自分を失うだろう』
ビックリしたアタランタは森に住み、男の求婚をさけようとしました。それでも、彼女の美貌が多くの求婚者を呼びます。それでこんな条件を出したのです。
「わたしと徒競走をして、勝った者と結婚します。でも、負ければ死んでもらいます」
負ければ死という条件にも、無鉄砲な若者は大勢いました。アトランタは、それほど美しかったのです。
「なぜ、命をかけてまで、アタランタと徒競走するのだろう?」
たまたまこの徒競走を見物していたヒッポメネスは、疑問に思いました。
ところが、アタランタの顔と衣を脱いだ裸身を見ると、ヒッポメネスはわれを忘れたのです。
「挑戦者たちよ、疑問に思ったことをわびよう。君たちが求めているアトランタの美しさを知らなかったのだ」
ヒッポメネスは誰もがアタランタに勝つことがないよう願い、はや自分もこの徒競走に参加しようと思っていました。
アタランタの心の迷いと愛情
ついに、ヒッポメネスはアタランタに挑みます。前に進み出ると、言いました。
「あんなだらしない男たちを負かして栄光を得ようとするのですか? このわたしと競争するのです。負けたからといって恥にはなりません。わたしの父はオンケストスのメガレウスであり、父の祖父は海神ネプトゥヌス(ポセイドン)です。もし、わたしが負けたなら、このヒッポメネスを負かしたということで、偉大な名声を得ることでしょう」
アタランタはヒッポメネスを見て、負けた方がいいのか、負かした方が良いのか迷いました。彼の若々しさにひかれたのです。
『どの神様が、ハンサムな彼を憎んで、死なせようとなさるのだろう? わたしを愛し、結婚を望んでいる。また、死んでも良いと思っている。さあ、旅の若者よ、ここを去るのです。命をかけた結婚などすて去るのです。
でも、多くの男に死を与えてきたのに、今さらわたしは何をためらっているの? ヒッポメネスが死のうが、知ったことではない。ああ、わたしより速く走ってくれれば! あなたは生きるのにふさわしいお方。非情な神託によって禁止されていなかったなら、床を共にしたいと思ったのはあなたが初めてです』
彼女は、自分の初恋に、愛に気付いていないのです。だが、徒競走を見にきていた人々や彼女の父親は、競争をうながしました。
勝負を分けるウェヌスの黄金のリンゴ
いざ競争になると、ヒッポメネスは不安になりました。
「ウェヌス(アフロディテ)様、どうか、あなたが燃え立たせたこの恋の火にご加護を」
ウェヌスは、ヒッポメネスの願いに心を動かされました。
美の女神ウェヌスに捧げられた神殿が、キュプロス島のタマソスの田野にあります。その土地の真ん中に果樹園があり、葉も枝々も黄金色に光り輝くリンゴの木がありました。
ウェヌスはその木から3個の実をもぐと、ヒッポメネスだけに見えるように姿を現しました。そして、女神はそのリンゴを彼に与え、どう使うかも教えたのです。
その時、ラッパが鳴りました。アタランタとヒッポメネスの徒競走のスタートです。2人は飛ぶように、砂地の上を走り出しました。