- キュニュラス王とその娘ミュラから生まれたアドニス
- 美の女神ウェヌス(アフロディテ)は「美」を忘れて、アドニスと狩をします
- アドニスの血にネクタルをかけると、アネモネの花が誕生
※神の名前は、ローマ神話名(ギリシャ神話名)です。
ミュラの子は、美しい男の子アドニス
キュニュラス王とその娘ミュラから生まれたのが、玉のように美しいアドニスです。大きくなってますますその美しさはかがやき、あの美の女神ウェヌス(アフロディテ)の愛情をえるようになりました。
それには、こんな理由があったのです。ウェヌスの子クピド(エロス)が矢筒を背負って、母に口づけをしたとき、矢筒からはみ出した矢が母の胸に触れたのです。その時から、ウェヌスはアドニスに夢中になったのです。
もはや、自身の神殿があるキュプロス島のパポスにも、クニドスの島にも、キュテラの島にも行きません。オリュンポス十二神が集まる天界の宴さえ出席しなくなったのです。
美の女神ウェヌスは「美」を忘れ、アドニスと狩をします
今や、美の象徴ウェヌス(アフロディテ)が、「美」を忘れたかのようにアドニスと狩をしているのです。着物を膝までたくし上げ、まるで狩の女神ディアナ(アルテミス)のようです。
犬たちをけしかけては、兎や鹿を追いかけます。しかし、決して荒々しい獣—狼、熊、猪、獅子は追いかけません。アドニスにも、このような危険な獣には近づかないように注意しているのです。
「逃げる獣には勇敢になるのもいいでしょう。しかし、荒々しい獣には向かっていってはいけません、命の危険があります。あなたの若さと美しさは、荒々しい獣には通用しませんから。
わたしをハラハラさせるのは、やめてほしいのです。凶暴な猪の曲がった牙には、雷電のような激しさが秘められています。熊の手の一撃は、あなたの首を一瞬で体から切り離しますからね」
アドニスの血がアネモネに
アドニスに忠告したウェヌス(アフロディテ)は、白鳥に引かせた車で、ひさびさに自身の神殿があるキュプロス島に向かいました。
しかし、いつの世でも、若者が忠告に従うことはありません。
犬たちが大猪の足跡を見つけ、ねぐらから追い出したのです。アドニスは出てきた大猪に、斜め横から槍を投げました。大猪は投げ槍を払い落とすと、アドニスめがけて突進してきます。
大猪の牙はアドニスの腹を突きさすと、地面に押し倒しました。
「ギャー!」アドニスのうめき声は、まだ天空にあるウェヌスの白鳥の車にまで届きました。すぐさま、アドニスのところに引き返す女神。だが、若者はすでに瀕死の状態でした。
ウェヌスは着物の胸元を引き裂くと、若者を抱きしめ叫びました。
「運命よ、すべてがあなたたちに屈することはないのです。アドニスよ、わたしの悲しみの思い出は、いつまでも残るでしょう。あなたの死は、舞台で何回も演じられましょう。また、あなたの血は花に変わるでしょう」
こう言うと、ウェヌスはアドニスの血に神酒ネクタルをかけました。すると、血がふくらんできました。その血の中から、同じ色の花が現れたのです。
しかし、その花の命は短いのです。花のつき具合が悪く、すぐ落ちてしまうのです。アネモネというその名前になっている風(アネモス)が、散らしてしまうからです。
アネモネの花