- テセウスとペイリトオス一行と河神アケロオス
- デイアネイラをめぐるヘラクレスとアケロオスの戦い
- 雄牛となったアケロオスの右の角を折るヘラクレス
※神の名前は、ローマ神話名(ギリシャ神話名)です。
テセウス一行と河神アケロオス
テセウス一行をもてなす河神アケロオス
カリュドンの猪退治の後、テセウスとペイリトオスたちはアテナイへと帰ります。途中、雨で増水したアケロオス河が行く手をさえぎっていました。
河神は彼らに呼びかけます。「名だたるテセウス殿、わたしの住まいで水が引くまでお休みなさい」。テセウスはうなずいて答えます。「アケロオス殿、ご好意にあまえて、あなたの住まいをお借りしましょう」
こうして、テセウス一行と河神アケロオスは、宴を共に楽しむことになりました。
会話は『バウキスとピレモン』『エリュシクトン』の話などなど、尽きることなく続きました。しばらくして、テセウスは河神に尋ねました。「ところで、アケロオス殿、あなたの右の角がないのは、どうしてなのですか?」
河神アケロオスは、恥いることももなく淡々と語り始めました。
デイアネイラをめぐるヘラクレスとの戦い
「面白くもないお頼みですが……。ヘラクレスに敗れたてんまつをお話しましょう。オイネウスの美しい娘デイアネイラをご存知でしょうか? 多くの求婚者がいました。その1人にわたしも入っていました。そして、あのユピテル(ゼウス)の子ヘラクレスも求婚者になったのです。
他の求婚者は、みなわたしとヘラクレスに遠慮して去っていきました。
ヘラクレスはこうオイネウスにアピールしました。『わたしはユピテル(ゼウス)の子で、多くの難行もこなしてきました。継母ユノ(ヘラ)の命令をやり遂げたのです』と。
わたしは、こう主張しました。『神が人間ヘラクレスに負けるのは恥ずべきこと。また、わたしはあなたの支配する国を流れています。よそ者ではないのです』と。
その後、ヘラクレスにはこう反論したのです。『ユピテルが本当の父であるはずがない。もしそうなら、あなたの母アルクメネは、不義の子を産んだことになる。だから、ユピテルを父と言うなら、ウソか不名誉な子になる』と」
雄牛となったアケロオスの右の角を折るヘラクレス
ヘラクレスとアケロオス(雄牛)の戦い
「ヘラクレスは怒って『おれの得意技は、舌ではなく腕だ。だから、口で負けても気にしない』と言うと、猛然と襲いかかってきたのです。わたしはひくに引けず、戦闘開始に備えました。
わたしの体の方が大きかったので、最初はなんとか持ちこたえていました。が、背中に乗っかられると、ヘラクレスは山のようにずっしりと感じられました。息も絶え絶えになったわたしは、ついに膝をついてしまったのです。
とうとう、わたしは自分の得意技を出しました。大蛇に変身したのです。しかし、ヘラクレスは笑っているではありませんか!
『蛇退治など、赤ん坊の頃からやってる。また、レルネの水蛇も倒しているのだ。頭が8つもあって、1つ切り落とすと2つの頭が出てくるのだぞ!』と言うと、ヘラクレスはわたしの喉を押してきたのです。その苦しいこと!
次に、わたしは雄牛に変身しました。すると、ヘラクレスはまた笑っているのです。『ネメアの獅子を退治したのはわたしだ』と言うと、後ろから角を2本つかみ、地面に押し倒してきたのです。その時、右の角がぽきりと折れたのです。
今ではこの角は、水の精たちが果物や花をいっぱい盛って、豊饒の女神に捧げているのです。
まあ、わたしの完敗で、デイアネイラはヘラクレスの妻になりました。しかし今では、わたしは彼と戦えたことを誇りに思っています」
こんな話をしているうちに、河の水は引いていきました。テセウスとペイリトオス一行は、アケロオスの住みかを辞していきました。