- ヘラクレスに届けられるネッソスの復讐の布
- ヒュドラの毒に体を焼かれるヘラクレス
- デイアネイラの召使いリカスの災難
※神の名前は、ローマ神話名(ギリシャ神話名)です。
ヘラクレスに届けられたネッソスの復讐の布
オイカリアからの帰途、ヘラクレスはケナイオンのユピテル(ゼウス)神殿で感謝の供儀を行おうとしていました。
一方、妻デイアネイラには、夫が帰ってくるという噂だけでなく「ヘラクレスがイオレという娘に熱を上げている」という噂も届いたのです。彼女はショックを受け、悲しみの中に突き落とされました。
彼女は悩みました。「このままではイオレに寝室を奪われてしまう。どうしたものか。故郷カリュドンに帰ろうか。でも、それでは恋敵をよろこばせるだけ。2人の邪魔をしてやるのは? いやいっそ恋敵の喉を切り裂いてやろうか!」
そんなデイアネイラは、思い出したのです——ネッソスがくれたヒュドラの血染めの布を。「あの布が、また夫ヘラクレスの愛を燃え上がらせ、わたしに戻ってくるかもしれない」
彼女は召使いのリカスを呼ぶと、夫ヘラクレスに届けるよう、ネッソスの復讐の布を供儀の礼服にぬいつけて託したのです。
ヒュドラの毒に体を焼かれるヘラクレス
ローブに焼かれるヘラクレス
ヘラクレスはリカスが届けてくれた礼服を身にまとうと、炎に香をくべ、ブドウ酒を祭壇にかけます。生贄の子羊の喉をさき、血を捧げます。供儀は順序通りに進んでいきました。
しかし、ヒュドラの毒は熱をおびてきて、ゆっくりとヘラクレスの肉を溶かしはじめます。彼の顔は、どんどん苦痛にゆがんでいきます。耐えられなくなると、大きな叫び声を上げ祭壇を手で押しのけました。
ヘラクレスは熱くなった礼服を脱ごうとしましたが、皮膚と肉までも一緒に剥がれるのです。
「ユノ(ヘラ)よ、わたしの災厄を喜ぶがいい。そして、わたしの命を奪うがいい。ネメアの獅子、レルネの水蛇ヒュドラ、地獄のケルベロスなどの難行をわたしに課してきたユノよ、もう難行を考えることもないのだ。
わたしはまだまだ難行を苦もなくやってのけられる。しかし、今はこの災厄に立ち向かうことはできない。それでも、わたしはユピテル(ゼウス)の子だ」
そう叫ぶヘラクレスは、隠れて震えているリカスを目にしたのです。
召使いリカスの災難
「おい、リカス。死を呼ぶ贈り物をくれたのはお前だったのか? 俺を殺そうというのか?」
リカスはブルブルふるえ、真っ青になりました。恐ろしさから、訳のわからぬ弁解を言いはじめました。そんなリカスを捕まえたヘラクレスは、彼を大きく2回、3回とふり回すとエウボイアの海へ投げ込みました。
この海は寒風が吹き、雨は凍り、雪になります。リカスの体は恐怖で血の気を失い、からだの水分もなくなり、石に変身しました。今でも、エウボイア海では、人間の形をした岩が水中に隠れたり、水面にわずかだけ姿を現したりしてるそうです。
その岩は、リカスと呼ばれているそうです。