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キュプロプス(ポリュぺモス)キュプロプスの子ポリュぺモス

エウリピデス作【キュクロプス】No.2

オデュッセウスに神酒をすすめられ、たらふく飲んだキュプロプスはべろんべろん状態になっています。知恵者オデュッセウス、キュクロプスを懲らしめる策を思いつきます。その策にサチュロス族の長も参加するよう誘いました。

また、オデュッセウスはキュプロプスに名前を聞かれると「誰でもない」というトンチじみた名前を思いつきます。後になって、この「誰でもない」という名前が生きてきます。

しかし、この劇より『オデュッセイア』の方が、このトンチの名前がはるかに生きています。この劇ではキュクロプスの仲間が登場しないので、そのトンチもイマイチにしか感じません。

エウリピデス作キュクロプス』No.2

コロス(合唱隊)=サチュロス族。老人シレノスもその一人。彼らは主人・酒神バッカスを探していて嵐にあい遭難。ポリュペモスに捕われて奴隷にされていました。

(エトナ山のふもと。キュクロプスの住居・洞窟の前)

キュクロプス[2]オデュッセウス、神酒で酔いつぶし作戦

キュプロプス、オデュッセウスの部下を食らう

コロス
家にきた嘆願者をいけにえにして
その肉を茹でて食い
焼き立ての熱いところを
忌まわしい歯で噛み切って呑む。
なんと無情な奴だろう!

お相伴はおことわり!
ひとりで詰め込むことですな。

(オデュッセウス、洞窟から出てくる)

オデュッセウス
おお、ゼウス様、洞窟の中で恐ろしいことが、言うべき言葉もありませぬ。
コロスの長
どうされたのだ。キュクロプスが、あなたの仲間を食ったのかな?
オデュッセウス
仲間の太った二人を手で挟んで重さをはかったと思ったら、銅の大鍋を火にかけると、先が火で焼いてある串、血受け皿を用意した。
一人を大鍋に放り込むと、残る一人の踵をつかみ、頭を岩に叩きつけ、包丁で体の肉を引き裂いて、串に刺して焼いた。残った手足は大鍋に投げ込み茹でてしまったのだ。
ほかの仲間は、小さくなっているほかなかった。奴はたらふく食べると、ごろんと横になった。

しかし、私の頭に妙案がひらめいた!

マロン様の神酒をなみなみと盃に注ぐと、奴にこうすすめたのだ。
「海神ポセイドンのお子キュプロプス殿、ごらんなさい、この酒を。ギリシャではぶどうからこのようなバッカス様の酒が造られるのです」
すると、奴はすぐさま飲み干すと、
「話せる旅人だな、うまい食事の後にうまい飲み物をくれるとは」
私はもう一杯、さらにもう一杯とすすめたのだ。
奴は調子っぱずれな鼻歌を歌い始めた。そのすきに、こうして外へ出てきたのだ。

オデュッセウスの策略

オデュッセウス
お望みなら、あんたがたも助けてあげたい。あんたの親父シレノス殿は賛成だと言った。
だが、もうろくしているし、酔っぱらっていて上の空のていたらく。
しかし、あんたは若い。私と一緒にここを逃げ出そうではないか。
コロスの長
そりゃいい。知恵者というあんたの考えを聞かせてくれ。長い間、男やもめの生活をしているから、すぐにも女が欲しい。
オデュッセウス
奴はいい気分になって、酒盛りに仲間のところへ行こうとしている。
だか、行かせず酔いつぶさせてやる。それから、洞窟の中にあるオリーブの枝の先を尖らせ、火で焼き、燃えたまま一つ眼に押し込んでやる。
コロスの長
なんという名案! 私にもその燃え木を持たせてくれませんか。一役かいたいのでね。
オデュッセウス
もちろん、その後、みんな揃ってこの島から脱出さ。

(オデュッセウス、洞窟に入る)

コロス
さあ誰が真っ先に、誰がそのつぎに
燃える木の根元を掴み
キュクロプスの眼を突きさして
やつを盲にするだろう?

(洞穴の中に歌声がする)

しっ しっー! そらそこへ
酔っぱらって 調子はずれに
どら声をはりあげながら
ぶざまな足どりで、今に泣き面かくだろう。
岩屋のなかからお出ましだ。
さあひとつ 陽気な歌で
あの野暮天を鍛えてやろう。
どのみち盲になるやつだが。

酔い潰れるキュプロプス

(キュクロプス、オデュッセウスとシレノスに支えられて、登場)

キュクロプス
うーい うい!
しこたま飲んだぞ おれさまは。
愉快な馳走に満腹だ。
荷船のように積みこんだな
胃袋のへりを越すほどに。
時は春、こころよい 青草に誘われて
兄弟のーつ眼族と浮れ騒ぎがしたいのだ。
さあ、旅の者 革袋を!

オデュッセウス
キュクロプス殿、お聞きください。
私はこのバッカス酒(神)とは昵懇の仲。人生を愉快にする、それにかけては最高の神(酒)。
キュクロプス
愉快な神だな。革袋に住んでご満悦とはな。気に入ったので、兄弟たちにも分けてやってはどうだろう?
オデュッセウス
酒盛りというやつは、殴り合いと口喧嘩がつきものだぞ。それに、酔った時は家にいるものだ。
キュクロプス
どうしたものだろうな、シレノス?
シレノス
ほかに、飲み仲間なぞ、いるものですか。さあ、地面に横になりなさい。

「誰でもない」という名前だ。

キュクロプス
おい、旅の者、お前の名はなんというのか?
オデュッセウス
「誰でもない」という名前だ。して、その私に革袋のお礼には何がいただけますかな?
キュクロプス
お前を食うのは、一番最後にしてやる。

(キュクロプスとシレノスは、革袋を奪い合いながら酒を注ぎ飲んでいる)

キュクロプス
(オデュッセウスに革袋を渡し)さ、客人、あなたが酌をしてくれ。
オデュッセウス
注ぎますよ。静かにお願いします。
キュクロプス
難しい注文だな。うんとこさ飲んでいる者に黙れとはな。
オデュッセウス
さあ、お飲みなさい。酒と刺し違える覚悟でな。たらふく食べ、たらふく飲めば、眠気が襲ってきましょう。
だが、バッカス様が許さないでしょうから、もっともっと飲みなさい。
(オデュッセウス、続けて何杯も飲ませる)
キュクロプス
わーい、わーい、観念したぞ。何という心地よさ。天と地がごちゃごちゃになって動いているようだ。
(サチュロスたちを見て)こいつらを可愛がる気にはならぬ。
おい、シレノス、お前がゼウス様に愛されたガニュメデスをやれ。そして、酒を注げ。
シレノス
ゼウス様に可愛がれたガニュメデスを、このおいぼれがするのですか!
(キュクロプス、シレノスを洞窟の中に連れてゆく)

※ガニュメデス=オリュンポスで酒の給仕をしている美少年

キュクロプス[3]俺を盲目にしたのは〈誰でもない〉という名?