〈夫アガメムノンを殺したクリュタイムネストラ〉
アイスキュロス作【オレステイア三部作】とは
オレステイア（オレステスの物語）とは、伝説的な古代ギリシャ・ミュケナイの王アガメムノンとその妻クリュタイムネストラ、その間に生れた息子オレステスや娘エレクトラを扱った一連の物語です。『アガメムノン』『供養する女たち』『慈みの女神たち』の三部作のこと。
オレステスとピュラデスは＂オレステスの訃報＂を持ってきた客人を装い、館に入ります。内心喜んだクリュタイムネストラは、オレステスの乳母だったキリッサに愛人アイギストスを呼びに行かせます。
オレステイア三部作 第２作
アイスキュロス作『供養する女たち』No.2
コロス（合唱隊）＝王妃に仕える侍女たち
オレステス＝アガメムノンとクリュタイムネストラの子供
（アルゴス城門の前）
供養する女たち［2］オレステスの仇討ち計画
オレステス、客人をよそおい館に入り込む
（オレステスとピュラデス、従者を連れて登場。城門の戸を激しく叩く）
オレステス
だれか、番人はいないか。
番人
客人はどちらのお方でしょうか？
オレステス
この館のご主人に伝えてくれ。その方々へある知らせを持ってきたのだ。
（クリュタイムネストラ、侍女を従え門より登場）
クリュタイムネストラ
お客様、何のご用でしょうか？ この館でかなうことなら、何なりとお役に立てましょう。お宿を所望なら、ご期待に添えます。込み入ったお話なら、主人が話を聞きます。
オレステス
私たちはポーキスからまいりました。途中、見知らぬ者から、ことづてを頼まれました。
「ポーキスのストロピオス様のお話で、オレステス様はもう死んでしまったと伝えてくれ。実はこの青銅の壷に、その方の灰が入っているのだ」と。
誰か、親御さんをご存じないでしょうか？
クリュタイムネストラ
まぁ、なんということ！ この館の呪いは抗いようがないもの。オレステスまでも奪い取るとは！ 家の呪いを解くただ一つの望みでしたのに。
オレステス
どうやら、オレステス様とはこの館の方でしたか。私どもとしても、このようなお話をお伝えしなければならないとは残念です。
クリュタイムネストラ
いたしかたございません。いずれ誰かがこの報せを持ってきたことでしょう。どうぞ、一日の旅のお疲れをとっていってください。
（オレステスとピュラデス門の中に入る）
コロス
いまこそ、まさに人をだます
説得の女神が出かけていってくださる時
剣をとり倒しあう時
黄泉路のヘルメス様が案内をしてくださる時です。
アイギストスを迎えにいくオレステスの乳母キリッサ
（館の中から、オレステスの乳母キリッサが出てくる）
コロス
キリッサさん、悲しい顔してどこに行かれるのですか？
乳母
奥様の言いつけで、事情を聞くようアイギストス様を迎えにね。奥様、渋面を作っていらしたが、目の奥底では『してやったり』と笑っているのです。アイギストス様にしても、昔のことはさておき、うれしいに決まっています。私としては、命をかけてお育てしたオレステス様が亡くなられた、こんな辛いことはありません。
コロス
して、奥様はどんな支度をしてくるように言ってらしたの。
乳母
それはどういう意味だね？
コロス
護衛隊と一緒にとか、お一人でとかです。
乳母
槍を持った家来をつれてきてとのお指図だわ。
コロス
あの方たちをお恨みなら、それは止めてください。一人でいらっしゃるように、お勧めなさい。一刻も早く、吉報ですからって。
乳母
あなた方は、あの報せに気を良くしているのかい！
コロス
とんでもない、でも、ゼウス様がこの災難の向きを変えてくださいますから。
乳母
じゃ、なにか話と違ったことでも知っているのかい？
コロス
とにかく、一人で来るように伝えてください。
乳母
よく分からないが、そう言ってみるよ。
（乳母、退場）
騙されたアイギストス、小姓一人だけを連れて
コロス
オリュンポスなる神々の御父ゼウス様
お叶えくださいませ
お家がしっかり立て直れるよう、ゼウス様
どうかお護りくださいませ。
仇に向かって、あの方は館の中においでです。
（アイギストス、一人の小性とともに登場）
アイギュストス
他国から来た者が、変わった便りを持ってきたというが。ありがたくない報せで、オレステスが死んだそうだ。この館は、血の出るような苦しみだろう。たんなる噂かどうか、教えてくれぬか？
コロス
私たちも伺いましたが、中にお入りになり、客人から直にお訊きくださいませ。
アイギュストス
もちろん、そのつもりだ。実際に自身の目で見たことなのか、評判にすぎないのか、万事を見通す私の心は、けっして欺きはできないからな。
（アイギストス、中に入る）
