- 毒蛇に足を噛まれたエウリュディケの死
- オルペウスの願い in 冥界
- 冥王ハデスがオルペウスに出した1つの条件
※神の名前は、ローマ神話名(ギリシャ神話名)です。
エウリュディケの死
エウリュディケは水の精たちを連れて散歩しているとき、草むらにいた毒蛇に足を噛まれ死んでしまいました。オルペウスとの結婚式を挙げる少し前のことです。
たいそう悲しんでいたオルペウスですが、冥界に降りていって、もう一度エウリュディケを返してもらう決心をしたのです。
フランソワ・ド・ノメ「冥界」
しかし、オルペウスはどんなことを冥王ハデスと妃プロセルピナ(ペルセポネー)に願ったのでしょうか?
オルペウスの願い in 冥界
オウィディウス『変身物語』によると、オルペウスの願いはこのようでした。もちろん、オルペウスは歌にして、竪琴に合わせ歌ったのです。
死すべく生まれついたわたしたちすべてが、いつかは帰っていかねばならない冥界の神々よ、真実を語ることが許され、あなたたちもそれをお許しくださるなら、申しましょう。
わたしをここへ来させたのは、妻なのです。妻は、うっかり毒蛇を踏みつけて、まだうら若い命を落としました。わたしは、この打撃に耐えうることを願い、またそう試みました。
しかし、「愛神」には勝てません。この神は、地上ではよく知られた神なのです。ここでもそうなのかどうか、それは知りませんが、多分そうだろうとは思うのです。
ハデス様の噂がいつわりでなければ、おふたりを結びつけたのも、この「愛神」でした。
歌うオルペウス
わたしは、恐怖にみちたこの場所にかけて、お願いしたいのです、エウリュディケの運命の糸を、どうか巻きもどしてくださいますように!
すべてのものは、いずれ、あなたがたのもとへ帰ります。わたしたちは、遅かれ早かれ、ここを目ざしています。ここ冥界が、最後の家なのです。
わたしの妻エウリュディケも、もっと年をとって、然るべき歳月を生きてから、あなたがたのものとなるはずでした。しかし……
わたしは、彼女を返してほしいと言っているのではないのです。ただ、貸してもらえればよいのです。それがかなわぬなら、わたしはここからもどらぬ覚悟です。
オルペウスが歌うと、冥界のさらに下のタルタロスの罪人も、その作業をやめて、聞き惚れたといいます。
たとえば、ハゲタカはティテュオスの肝臓をついばむことをやめ、シーシュポスは山頂に運ぶ石の上に座ってしまいました。イクシオンをくくりつけた車輪は止まり、穴の開いたつぼで水汲みをしていたダナオスの娘たちも、その作業をやめたといいます。
また、あの恐ろしい復讐の女神でさえ、その頬を涙で濡らしたそうです。
冥府の王と妃もオルペウスの願いを拒むことはできず、エウリュディケを呼びました。彼女はまだ蛇にかまれた足を、引きずるようにやってきました。
冥王ハデスの一つの条件
冥王ハデスは、オルペウスに1つの条件を出しました。アウェルヌス湖の谷あいを出るまでは、後ろを振り返ってはならないということです。
オルペウスとエウリュディケは物音一つしない静寂の中、暗い坂道を歩いていきます。地表に近づくほど、オルペウスの心配は大きくなりました。「足の弱った妻は、無事についてきているだろうか?」
そして、オルペウスはとうとう振り返ってしまったのです。すると、エウリュディケは後退していきました。オルペウスに手を差しのべても届かず「さようなら」と言うと、奥へ消えてしまったのです。
こうして、オルペウスは、エウリュディケを2度も手放してしまったのです。彼は悲しみ、もう一度冥府の河を渡ろうとしました。しかし、渡し守カロンが許すはずがありません。
彼は食事もとらず、7日のあいだ河のそばにいました。が、とうとう故郷のそびえ立つロドペと北風の吹きすさぶハイモスのふもとへと帰っていったのです。