- プロセルピナ(ペルセポネ)を世界中探しまわる豊饒の女神ケレス(デメテル)
- 水になった妖精キュアネの残したプロセルピナの帯
- 泉の精アレトゥーサの証言から、ケレスはユピテル(ゼウス)へ申し立てます。
※神の名前は、ローマ神話名(ギリシャ神話名)です。
娘プロセルピナを探しまわる豊饒の女神ケレス
プロセルピナを失い悲しむケレス
豊饒の女神ケレス(デメテル)は、娘プロセルピナ(ペルセポネ)を世界中探しつづけていました。疲れ切った女神は小さな小屋を見つけると、水を求めました。すぐに老婆がこがした麦粒を入れた蜂蜜酒をごちそうしてくれました。
女神ケレスが飲んでいると、家にいたいじわるそうな少年が「がつがつした婆さんだな」となじります。腹を立てた女神がその少年に麦粒を投げつけると、みるみる少年の顔にまだら模様が浮かんできます。また、体はどんどん小さくなり、腕は足となり、尾も生えてきました。小さなマダラトカゲに変身したのです。
驚いた老婆が触れようとすると、マダラトカゲは物のかげに逃げ込んでしまいました。
ヒョウモントカゲモドキ
妖精キュアネの残したしるし
豊饒の女神ケレス(デメテル)は東の果てから西の果てまで探した後、またシケリアに戻ってきました。キュレネの泉にも立ち寄ります。水になって消えた妖精キュレネが生きてさえいれば、プロセルピナ(ペルセポネ)の略奪を教えてもらったことでしょう。
しかし、キュレネは証拠のしるしを泉に浮かべたのです。それは、母ケレスにも見おぼえのある娘プロセルピナの帯でした。帯は略奪されたときに、彼女から落ちたのでした。
女神は、娘はもう戻らないのではないかと思い怒りました。髪をかきむしり、胸を打ち、全世界を「恩知らず! 豊饒の実りを与えられるに値しない!」と呪いました。とりわけこの地シケリアを非難したのです。
女神は畑仕事の鋤という鋤を壊し、種子という種子もだめにし、農夫も、畑仕事の牛も死に絶やしたのです。また、日照りが長く続くかと思うと、長雨にもなります。すでにまかれていた種子は鳥がついばみ、畑には雑草がはびこります。
そんな時、泉アレトゥーサの妖精が水上に現れたのです。
アレトゥーサの証言、ケレスをユピテルの元へ
「プロセルピナ(ペルセポネ)様のお母様、大地の恵みの女神様、この土地への激しい怒りはおやめください。土地に罪はありません。わたしはアレトゥーサといいます。故郷はピサで、出生地はエリスです。なぜ、この地の泉になっているかはともかく、ここへ流れ着いたときに、プロセルピナ(ペルセポネ)お嬢様を見たのです」
不安な表情をしている女神に妖精は言いました。「お嬢様は女王様に、冥王のお妃様になっておられるのです」。女神はしばし呆然としていました。やがて放心状態からさめると、悲しみがこみ上げてきました。
ユピテルにつめよるケレス
女神ケレスはすぐに2匹の竜に引かせた車を駆ってオリュンポスへ向かいます。大神ユピテル(ゼウス)の前へ出ると、怒りを沈めながらもつめよります。
「大神ユピテル様、お願いにまいりました。長いあいだ探していた娘が見つかったのです。といっても、わたしにはもう手がとどきません。しかも、人さらいが婿になっているとは! ふさわしくありません。母親への情けはお持ちでなくても、あなたは父親ですから、娘にはお気をかけてくださいませ」
ユピテルは答えました。「わしにとっては、娘はお前との愛の証だ。ただ今回のことは『略奪』という不正行為ではない。真実の愛の結果なのだ。あの婿は、われらにとって恥にはならないだろう。おまえの同意があれば、何かの欠点があるかもしれむが、なんといってもこのユピテルの弟※なのだから」
※一般的にハデスは長兄で、次男がネプトゥヌス(ポセイドン)、ユピテルは末っ子です。
また、ユピテルは付け加えました。「それでもプロセルピナと別れたくないと言うのならば、天界に戻すがよい。だが一つ条件がある。冥界の食べ物を口にしていない、という条件が。これは運命女神のとりきめで、この大神ユピテルさえどうすることもできぬ」