- おごり高ぶるニオべ、女神ラトーナ(レト)をおとしめる
- ニオべの7人の息子と7人の娘 vs 女神ラトーナの1男1女
- 女神ラトーナの怒り、アポロンとディアナ(アルテミス)出動
※神の名前は、ローマ神話名(ギリシャ神話名)です。
ニオべ、女神ラトーナをおとしめる
若い頃ニオべは、アラクネが女神ミネルウァ(アテナ)に罰を受けてクモに変身したことを聞いていました。しかし、神々に一歩を譲るべきことと大口を叩かないという教えは、受けとってはいませんでした。
また、テーバイ市の大預言者テイレシアスの娘マントーが市中でこんな予言をしていました。「テーバイの女たちよ、女神ラトーナ(レト)様の御子アポロンとディアナ(アルテミス)様に香を捧げて祈れ! 頭には月桂樹の冠をいただいて。わたしの口をかりて、女神ラトーナ様が命じていらっしゃるのだ」
この言葉に、テーバイ市の女たちは頭に月桂樹の冠をして、祭壇の前に香をささげ、祈りを捧げていました。
女神ラトーナとその御子アポロンとディアナ
そこへ、ニオべが大勢の従者を連れてやってきました。黄金で飾った衣服を着た彼女は、顔に怒りをあらわして、市民を見下しながらこう言いました。
「話に聞いているだけの女神をたたえ、目の前にいるわたしを崇めないとはどういうことか! わたしの父は神々の食卓につくことを許されたただ1人の人間タンタロスで、ゼウスの子でもある。母は、巨人ティタン族アトラスの娘ディオネだ」
7人の息子と7人の娘 vs 1男1女
ニオべの自慢話は、続きます。
「夫アムピオンの竪琴の響きで築き上げられたテーバイ市の城壁と王家は、夫と女王たるわたしの統治下にあるのです。そして、わたしには女神のような美貌がそなわっている。わたしの子供は、7人の息子と7人の娘。それに比べると、ラトーナには双子の1男1女だけしかいない。わたしに比べるとたったの7分の1でしかないではないか!
それに、ラトーナが双子を生んだ時は、大神ユピテル(ゼウス)の妃ユノ(ヘラ)様の怒りをかい、世界中から締め出され、ぐらぐらする浮いたデロス島しかなかった。わたしとラトーナ、どちらを称えるべきかわかろうというものだ。
このように、わたしは幸せの絶頂にいる。たとえ運命が6男6女の子供たちを奪っても、まだ2人残る。ラトーナはたった2人の子供で十分と思っているなら、全然いないのと同じではあろう。だから、皆のもの、冠をとって供儀など止めるのだ。そして、さっさと家に帰るのだ」
ニオべの言葉に、市民は帰りはじめました。
女神ラトーナの怒り
ニオべの言動をキュントスの山頂で見ていた女神ラトーナ(レト)は怒り、2人の子に言いました。
「わたしはあなたたちを産んだことを、誇りに思っています。大神ユピテル(ゼウス)の妃ユノ(ヘレ)様を除いて、どんな女神にも引けを取らないわたしが、今あの人間ニオべに女神であることを疑われています。大昔から崇められているわたしたちの祭壇が、追い払われようとしています。
タンタロスのあの娘は、さんざんわたしに悪態をつきました。あなたたちよりも自分の子供をほめ、わたしを子なし同然とののしったのです。罪深いあの舌は、父親タンタロスゆずり※なのです。だから、お前たち……」
「母上、お止めください。長たらしい訴えは、罰をお遅らせるだけです」と、アポロンとディアナ(アルテミス)。2人は弓矢を手にすると、空を滑走し、早くもテーバイの王城に着いていました。
※タンタロス ゼウスの子で、神々を食卓に招いた時、神を試すつもりだったのか善意からだったのか、息子ペロプスを殺し、その体を切り刻んでシチューにして食事に出しました。また、神々の食卓に招かれていましたが、このときの秘密を人間に漏らしたか、神々の飲食物ネクタルとアンブロシアを盗んで人間に与えたために、奈落(ならく)タルタロスへ落とされました。その罰は今も続いているのです。
女神ディアナとアポロン神