- デウカリオンとピュラはをイカダに乗って、パルナッソス山をめざしました。
- 2人は女神テミスの神殿で祈り、神託を授けられます。「神殿を出よ! 頭をおおって、帯で結んだ衣を解くように! そして、大いなる母の骨を、背後に投げよ!」
- デウカリオンとピュラは、何日も悩み考えました。そして、出した答えとは?
※神の名前は、ローマ神話名(ギリシャ神話名)です。
大洪水を生きのこったデウカリオンとピュラ
大洪水
大洪水により、すべてが水におおわれてしまいました。ただひとつパルナッソス山だけは水面の上にその頂きを出しています。そこへ、1人の男と1人の女がたどりつきました。
プロメテウスの息子デウカリオンとエピメテウスの娘ピュラです。
人間に「火」をあたえたプロメテウスには未来が見えます。デウカリオンに大洪水がおこることを教えていたのです。だから、2人はイカダに乗ってパルナッソス山をめざしていたのです。
天上界から地上を見おろしていた大神ユピテル(ゼウス)は、デウカリオンとピュラが生きのこったのは「よし」としました。なぜなら、この2人は汚れを知らず、信心深かったからです。そして、北風に雨雲をふき払わせました。
海神ネプトゥヌス(ポセイドン)は、息子のトリトンをよぶと、海水と河川を呼びもどさせました。水位がかがっていくと、丘が、平原が、陸が現れてきます。しかし、荒れはてた大地は、静けさに包まれていました。
女神テミスに祈るデウカリオンとピュラ
正義の女神テミス
デウカリオンはピュラに言いました。「おお、わたしの妻でいとこのピュラよ、世界にはわれら2人しかいなくなってしまった。わが父プロメテウスのように、新しい人間たちを作り出せたらいいのに! これが神々の御心だったのであろうか?」
もはや、デウカリオンとピュラには、神に祈り、神に助けを求めるしかありません。2人は聖なる女神テミスの神殿に向かいました。「女神テミスさま、どうか沈没したこの世界をお救いください」
女神テミスは次の神託を2人に授けました。
「神殿を出よ! 頭をおおって、帯で結んだ衣を解くように! そして、大いなる母の骨を、背後に投げよ!」
デウカリオンとピュラは呆気にとられました。しばらくして、ピュラは言いました。「女神さまの命令には従えません。骨を投げることは、母親の魂を辱めることになります」
デウカリオンとピュラは、その後も難解な神託の言葉を考えつづけました。
新しい人間の誕生
そんなある日、デウカリオンはピュラに優しく言いました。
「神託は神聖なものだ。だから、悪を勧めるものではないはずだ。『大いなる母』とは大地ので、大地のつつまれている石が『骨』であろう。石を背後へ投げよ、という命令なんだ」
ピュラにはデウカリオンの言うことに心を動かされましたが、まだ神の信託を疑っていました。しかし、石をうしろに投げたからといって、悪いことではありません。何もしないよりはマシです。
デウカリオンとピュラは帯をとき、石をひろうとうしろへ投げはじめました。
石を背後へ投げるデウカリオンとピュラ
すると、どういうことでしょうか!
投げた石はやわらかくなり、ゴツゴツした形からなめらかになっていきます。人間の形になってきたのです。それでも、石のいちばん硬いところは骨となり、石のもようは血管になったのです。
こうして、デウカリオンが投げた石は男に、ピュラが投げた石は女になり、新しい人間が誕生したのです。