- 女神ディアナ(アルテミス)の水浴に、遭遇する不運なアクタイオン
- 女神ディアナの怒り「裸のわたしを見たと言いふらしてもよいのですよ。ただし、そうすることができたらね」
- 鹿に変身したアクタイオン、自分が飼っている猟犬たちに噛み殺される
※神の名前は、ローマ神話名(ギリシャ神話名)です。
不運なアクタイオン、女神ディアナの水浴の泉に
「今日の狩は上出来だ。この辺で狩をやめて、また明日にしよう」と、カドモスの孫アクタイオンは仲間たちに言いました。
この辺りには、松と糸杉に囲まれた、まだ人間が入ったことのない狩の女神ディアナ(アルテミス)のガルガピエの聖地があります。清らかな泉が湧いていて、狩の後いつも女神がお供のニンフを連れてやってきます。
今日も、狩の女神はこの泉にやってくると、弓矢と脱いだ衣をニンフにあずけ水浴しようとしました。そこへ、アクタイオンがやってきたのです。彼は、女神を覗こうとして来たのではありません。運悪く来てしまったのです。
驚きで、ニンフは大声で叫びました。そして、女神の裸をアクタイオンから隠すために、女神の周りに集まりました。
女神は他のニンフより背が高く、アクタイオンをにらみつけた顔は、怒りに赤く染まりました。そして、水を彼にかけると、怒りの声を放ちました。
「裸のわたしを見たと言いふらしてもよいのですよ。ただし、そうすることができたらね」
鹿に変身したアクタイオン
すると、アクタイオンの頭からは雄鹿の角が生えてきました。顔と首は伸び、手は前足になり、全身はまだらの毛皮におおわれます。そう、鹿に変身したのです。
鹿になったアクタイオンは、臆病心から逃げ出しました。しかも、いつもより素早く崖を、坂道を走っている自分にも驚きました。
しばらくして、走ることを止めたアクタイオン。「なんと惨めなことだ。わが家へ、王宮へ戻ったらよいか。森に隠れていようか?」恥ずかしさと恐ろしさから、どちらも選べませんでした。
迷っている不運なアクタイオンを、さらなる災難がおそったのです。なんということでしょうか! 自分で飼っていた何匹もの猟犬に見つかってしまったのです。
自分の猟犬に追われるアクタイオンの最期
クレタ犬、スパルタ犬、アルカディア犬など、様々な能力を持った猟犬です。疾風のごとく素早い犬、切り裂く牙をもった獰猛な犬、回り込んで待ち伏せする賢い犬たち——もはや、鹿になったアクタイオンが逃れる術はありません。
「おれはアクタイオンだ、おまえらの飼い主ではないか!」と叫んでも、人間の声にならず、犬たちが攻撃を止めることはありません。
鹿になったアクタイオンを襲う猟犬
鹿となったアクタイオンの背に飛び乗る犬、肩にかみつく犬、腿に食らいつく犬、とうとう倒されたアクタイオンの体中に鋭い牙が襲いかかります。
痛みに、呻き声にならない声を発するアクタイオン。
犬たちをけしかけるアクタイオンの仲間は、大物を狩ったことをアクタイオンに伝えようとします。「お~い、アクタイオ〜ン。どこに行ったんだ。大きな獲物をしとめたぞ~」
女神ディアナ(アルテミス)の怒りは、犬たちに切り裂かれるアクタイオンが死ぬまで止むことはありませんでした。
後の人々は、女神ディアナの厳粛な処女性と残虐さに賛否両論が起こりました。