- カリストは、女神ディアナ(アルテミス)に化けた大神ユピテル(ゼウス )に妊娠させられます。
- 女神ディアナ(アルテミス)も、ユピテルが悪いと知っているはずなのに、カリストを自分のお供から追放してしまいます。ディアナは処女神ですから、男女の仲や恋には融通がきかないのです。
- カリストとアルカスの母子は、「おおくま座」と「こぐま座」として、今でもいっしょに天界で暮らしています。
※神の名前は、ローマ神話名(ギリシャ神話名)です。
女神ディアナに化けたユピテル
ディアナに化けたユピテルとカリスト
ある日、地上を見おろしていた大神ユピテル(ゼウス)は、アルカディアというところの美しい乙女に目をうばわれました。月の女神ディアナ(アルテミス)のお気に入りで、いつもお供をしているカリストです。カリストという名は、「とても美しい」という意味です。
女神ディアナは、狩が好きな女神です。まるで男のように森の中をかけまわり、小さな動物を弓矢で射るのです。カリストも女神ディアナと同じで、狩が大好きな乙女なのです。
ですから、ユピテルが口説いたとしてもカリストが同意するはずがありません。ユピテルはいろいろ考えて、女神ディアナに化けることにしました。
カリストが木かげで休んでいる時に、ディアナに化けたユピテルが声をかけます。「今日の狩は、どうでした?」。
そして、ユピテルはカリストに近づくと、ほほにキスをしました。その後、ユピテルは大神の姿にもどると、彼女を抱き妊娠させたのです。
女神ディアナから追放されるカリスト
あれから8ヶ月がすぎたある日、女神ディアナ(アルテミス)とニンフたちは狩の後に、ほてった体をひやすために泉に入っていました。カリストは大きくなったお腹をかくしていたのですが、見つかってしまいます。
女神ディアナは怒り、「ここから出て行きなさい」とカリストに言いました。女神ディアナのお供が恋をしたり、子供を作ってはならないからです。カリストは悲しくなりましたが、出て行かざるをえませんでした。
そして、その2ヶ月後に、カリストはアルカスという男の子を生んだのです。
カリストを熊に変身させるユノ
カリストを熊に変身させたこわいユノ
ユピテルの妃ユノ(ヘラ)は、カリストがアルカスを生んだのが許せません。地上におりてくると、カリストの髪の毛をつかんで、彼女を地面にたおします。
怖くなったカリストは、ユノに手を合わせて「ごめんなさい」と言おうとしました。しかし、その手からは黒い毛が生えてきました。指の先は、するどいかぎ爪になりました。口は大きくさけて、その声は「ガォー」ということしか言えません。こうして、カリストは熊に変身したのです。
熊になっても、カリストの心はやさしいままでした。だから、森の中でオオカミやイノシシにであうと、逃げてしまいます。ほんとは、熊であるカリストのほうが強いのですが。
カリストとアルカスの母子、おおくま座とこぐま座に
カリストの子アルカスが15歳になった頃、アルカスは狩りをしていました。すると、1匹の熊を見つけたのです。母のカリストです。しかし、アルカスには母だとはわかりません。
カリストは「アルカスなの」とやさしく声をかけたつもりでした。しかし、その声は「ガォー」という恐ろしい声になっていました。アルカスは、逃げだします。カリストは自分の子を抱きしめたくて、追いかけます。とうとう、アルカスは弓矢をかまえました。
熊になった母カリストを射かける子アルカス
アルカスが矢をはなとうとしたその瞬間、カリストとアルカスの母子がかわいそうになったユピテルがあらわました。そして、2人を天空につれていくと、「おおくま座」と「こぐま座」にしたのです。
ユピテルの妃ユノの怒り
カリストとアルカスの母子が「おおくま座」と「こぐま座」になったことが、ユノ(ヘラ)には許せません。星座になることは、神になることと同じですから。でも、夫ユピテルに文句も言えません。怒ったユノは、育ててくれた海神オケアノスとテテュスに泣きつきました。
「わたしを育ててくれたお父さんとお母さん、カリストをこらしめて熊に変身させたのに、夫ユピテルは神にしてしまいました。だから、あの母子には海にしずんで休ませないでください」
海神オケアノスとテテュスは、ユノの願いを聞き入れました。だから、「おおくま座」と「こぐま座」は、夜になってもけっして安らぐ海にしずむことはないのです。ユノは少しおちつくと、クジャクの馬車にのって天界へかえりました。