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ラピタイ族とケンタウロスの死闘

舞台は、ラピタイ族の王ピリトオオスと花嫁ヒッポダメイアの結婚式。

華やかな宴の席に、近隣に住むケンタウロスたちも招かれますが、彼らは酒に酔いやすく、しばしば粗暴な行動に出ることで知られていました。

宴が進むにつれてその危うさは現実となり、ついに一頭のケンタウロスが新婦をさらおうとした瞬間、宴は修羅場へと変わります。

ポイント

オウィディウスは、この戦いを単なる乱闘としてではなく、「理性と野蛮の衝突」として描きます。人間側であるラピタイ族は秩序と礼節を守ろうとし、ケンタウロスは酒に溺れた獣性をむき出しにします。

武器は剣や槍だけではなく、壺や椅子、燃える松明までが戦場で振るわれ、戦士たちは頭蓋を砕き、血飛沫を浴びながら戦いました。

登場人物がラピタイ族なのかケンタウロスなのか混同しないよう、最後に戦士名簿も掲載します。古典文学の中でも屈指の迫力を誇る一幕を、どうぞ体感してください。

ラピタイ族とケンタウロスの血戦

婚礼の宴に忍び寄る影

ラピタイ族の王ピリトオオスと、花嫁ヒッポダメイアの婚礼は、陽光の下で始まった。列席者は笑い、杯は満ち、竪琴の音が高く響いていた。そこには隣人であり、時に荒々しい客でもあるケンタウロスたちも招かれていた。馬と人の血を併せ持つ彼らは、酒を口にするとたちまち獣の気配を濃くする。甘い葡萄酒が何度も杯を満たす頃、一頭のケンタウロス――エウリュティオーンの眼が花嫁を射抜いた。瞳は赤く濁り、鼻息は荒く、ついに彼は宴席を蹴散らし、花嫁の細い腕を乱暴に掴んだ。

不死身の戦士、立つ

悲鳴が響くより早く、ラピタイ族の戦士カイネウスが立ち上がる。かつて女であった身をポセイドンの力で不死身の男に変えられたこの勇士は、刃を閃かせてエウリュティオーンの脇腹に槍を突き立てた。金属が骨を裂き、血が温かい流れとなって大地を濡らした。ケンタウロスは低く呻き、花嫁を離すや、その巨体を崩れ落とした。

宴は修羅場へ

この一撃は狼煙だった。宴席は一瞬にして戦場と化す。皿は割れ、葡萄酒は血と混じり、香ばしい肉の香りに鉄の匂いが交じった。ケンタウロスは剣や槍を持たぬ者も、手近な物を武器に変える。ワインの壺が頭蓋を砕き、燃え盛る松明が衣を焦がし、巨大な椅子が骨をへし折る。ラピタイ族は盾で衝撃を受け止め、刃を閃かせて応じた。

英雄たちの討ち合い

アンフィオーンというケンタウロスがラピタイ族の若者一人を押し倒し、蹄で胸骨を粉砕する。しかしその瞬間、英雄ペレウスが背後から槍を投げた。穂先はアンフィオーンの肩を貫き、骨を砕き、血飛沫が花嫁の白い衣を汚した。アンフィオーンは獣の叫びを上げて倒れ、蹄が痙攣した。

そのすぐそばで、アテナイの王テセウスが剣を振るう。標的はケンタウロスのエウリュテュス。巨大な体を誇るこの獣人が雄叫びと共に突進したが、テセウスは身を翻し、剣を真上から振り下ろす。刃は額を割り、頭蓋を二つに裂き、脳漿が飛び散った。エウリュテュスの眼は見開かれたまま光を失い、巨体が地響きを立てて崩れ落ちた。

カイネウス包囲

しかし戦況はなお混迷していた。中央ではカイネウスが無双のごとく立ち回り、幾本もの槍がその胸を突いたが、刃は肉に沈まず、金属音を響かせて弾かれた。ケンタウロスの首は斬られ、血は噴水のように宙を舞った。だが敵は次第に知恵を絞り、不死身の戦士を倒すため、剣を捨て、大木や岩をその上に投げ始めた。最初は一つ、次に二つ、そして十にも及ぶ巨木が重なり、地面は唸りを上げて沈んだ。カイネウスの姿はやがて見えなくなり、土と木の山の下からは何の音も聞こえなかった。後に人々は、そこから金色の鳥が飛び去ったと語った。

退却と沈黙

カイネウスを失ったものの、ラピタイ族の奮戦は続き、やがてケンタウロスたちは戦意を失い、森の奥へと退いた。残されたのは血と肉片と割れた杯、そして祝宴を覆う沈黙であった。花嫁は無事であったが、婚礼の歌はもはや戻らず、香の煙は戦死者の魂を慰めるために焚かれた。宴は終わり、戦いは物語となった――人の理性と獣の本能が激しくぶつかり合った、血塗られた婚礼の記憶として。

ラピタイ族側(人間陣営)

名前 役割・立場 戦場での活躍 最期
ピリトオオス(Peirithoos) ラピタイ族の王、新郎 婚礼の主催者として戦場では指揮的存在。直接の戦闘描写は少ないが、混乱の中心で女性たちを守る。 生存
ヒッポダメイア(Hippodameia) 花嫁 エウリュティオーンに連れ去られそうになる。戦いの発端となる存在。 生存
カイネウス(Caeneus) 不死身の戦士、元は女性 戦いの最初にエウリュティオーンを殺す。多数のケンタウロスを討つが、巨木と岩に押し潰され地中に消える(あるいは金色の鳥に変化)。 戦死(変身説あり)
ペレウス(Peleus) 英雄、アキレウスの父 ケンタウロスのアンフィオーンを槍で討つ。 生存
テセウス(Theseus) アテナイ王、ピリトオオスの親友 ケンタウロスのエウリュテュスを額から真二つに両断。 生存
その他のラピタイ族戦士 名は不詳 剣や槍で応戦し、多くがケンタウロスを討つが戦死者も出る。 不詳

ケンタウロス側(獣人陣営)

名前 特徴 戦場での活躍 最期
エウリュティオーン(Eurytion) 花嫁を狙った粗暴なケンタウロス ヒッポダメイアを連れ去ろうとするが、カイネウスに槍で討たれる。 戦死
アンフィオーン(Amphion) 力強い戦士型ケンタウロス ラピタイ族の若者を蹄で殺害。しかしペレウスに槍で討たれる。 戦死
エウリュテュス(Eurytus) 大柄で好戦的 テセウスに額から頭蓋を二つに割られる。 戦死
その他多数 名は記されない 大木や岩でカイネウスを押し潰す作戦に参加。松明や椅子、壺などを武器に乱戦を挑む。 多数が戦死、残党は退却

戦いの総括

ラピタイ族は婚礼の場を守り切り勝利したものの、カイネウスをはじめとする多くの犠牲を払いました。ケンタウロス側は主力戦士を失い、森の奥へ退却。戦場に残ったのは割れた杯、血に濡れた白布、そして鉄の匂いでした。