- ピュラモスが「ティスベが殺された」と勘違いしたことで、2人は死ぬことになりました。
- ピュラモスとティスベの流した血が、白い桑の実を赤黒い色に変えてしまったのです。
- シェイクスピア『ロミオとジュリエット』のモチーフとなったギリシャ・ローマ神話です。
※神の名前は、ローマ神話名(ギリシャ神話名)です。
壁を隔てた隣どうしの恋
言い出しっぺのミニュアスの娘は、次の物語を話はじめました。
バビュロンの都でのお話です。美青年ピュラモスと東方第一の美女ティスベは隣り合わせの家に住んでいました。2人はいつのまにか恋に落ちていました。
両家の間の壁には、細い裂け目があり、ピュラモスとティスベは、毎日その裂け目を通して愛を語っていました。時には、不満をぶつけることもありました。
「嫉妬ぶかい壁よ、どうして2人の邪魔をするのだ? 抱き合うことを許してもいいだろ。それがかなわぬなら、せめて口づけさせる隙間を開けておくれ……。でも、こうして語り合うことができるのだから感謝しようか」
ある日、ピュラモスとティスベは、こんな取り決めをしました。夕暮れになったら、見張りの目をかわして、門の外の町はずれにあるニノス王の墓、白い実をつけた桑の木の陰で落ちあおうと。この桑の木は、冷たい泉のそばに生えていました。
桑の白い実が赤黒い色に変わった理由
家のものにも気づかれず、ヴェールをかぶったティスベは、夜陰に乗じて門の外に出ました。そして、桑の木の根元に座っていました。
すると、そこに口を血だらけにした雌ライオンが現れました。泉の水を飲みにきたのでしょう。ティスベはあわてて、近くの洞窟に隠れました。その時、彼女はヴェールを落としてしまったの。
水を飲んだ雌ライオンはヴェールに気づくと、血だらけの口で引き裂いてから、遠くへ去っていきました。
そこへ遅れてやってきたピュラモス。彼は引き裂かれたヴェールと獣の足跡を見つけて真っ青になりました。「今夜、若者が2人死んでいく。ぼくが遅くなったばかりに、彼女を死なせてしまった! ああ、獅子たちよ、罪深いこの体を食い尽くすのだ。が、口先だけで死を願うのは臆病者……」
ピュラモスはヴェールに口づけすると「今こそ、ぼくの血も吸ってくれ!」と言い、持っていた剣でわき腹を刺しました。そして、彼は剣を抜くと、あお向けに地上に倒れました。血が勢いよく噴き上がります。
ピュラモスの血は桑の木にかかり赤く変えました。根も血を吸って、白い実が赤黒い色に変わったほどでした。
ティスベの自害
まだ雌ライオンがいるかどうか、恐るおそる戻ってきたティスベ。桑の木を見て、「この木だったかしら?」と不信を抱きましたが、そばに倒れている人影を見てガクガク震えはじめました。
倒れている人が恋人ピュラモスと気づくと、髪をむしり嘆くティスベ。彼を抱きおこすと「ああピュラモス、答えてちょうだい! ティスベです」
ティスベの声に、ピュラモスはちょっと目を開け彼女を見ました。でも、また閉じてしまいました。
「ああ、ピュラモス、あの世へわたしもお供いたします。わたしたちは、死によって引きさかれることはありません。お父様、そしてピュラモスのお父様、わたしたちをどうか同じ墓に葬ってくださいますように。そして、桑の木よ、わたしたちの死の形見に、これからも嘆きにふさわしい黒い実をつけてください。2人の血潮の思い出に……」
そう言うと、ティスベはピュラモスの剣を胸にあてがい、うつ伏せになりました。彼女の願いは、神々によって、親たちによっても聞き入れられました。そして、桑の実は今も黒い色をしているのです。
映画『ロミオとジュリエット』
映画『ロミオとジュリエット』(1968)
オリビア・ハッセーとレナード・ホワイティング主演。原作にはない、ロミオが木をよじ登りバルコニーに上がったのは新鮮な驚きでした。若者の一途な愛をよく表していると称賛されました。音楽はニーノ・ロータ。ロミオとジュリエットが初めて会うシーンの主題歌オリジナル版『What Is A Youth』も美しいメロデーでよかったです。
※歌はオリジナル版ではありません。