- メガラのニーソス王の緋色にかがやく一房の髪の毛の秘密
- クレタのミノス王によせるニーソス王の娘スキュラの激しい恋
- 父親の緋色の髪の毛を切りとる娘スキュラ
※神の名前は、ローマ神話名(ギリシャ神話名)です。有名な怪物スキュラではありません。
メガラのニーソス王のある秘密
クレタのミノス王は、アテナイで殺された息子アンドロゲオスの仇のために、アテナイに戦争をしかけます。アテナイの西方にあるメガラは、アテナイ王アイゲウス(テセウスの父)の弟ニーソスが統治していました。今ミノス王は、そのメガラの城を包囲しています。
ニーソス王には、ある秘密がありました。白髪にまじって、緋色にかがやく一房の髪の毛が生えています。この緋色の髪の毛があるかぎり、神託により彼の王権は安泰であるということでした。
そのためでしょうか? ミノス王はメガラの城を6ヶ月も経っていましたが、落とすことができません。
ニーソス王の娘スキュラ、ミノス王を恋する
ニーソス王の娘スキュラとミノス王
メガラには、むかしアポロン神が城壁に黄金の竪琴をおいたという伝説がありました。そのため、この城壁と塔は妙なる響きを発することができるのです。
小さい頃から塔で遊んでいたのが、ニーソス王の娘スキュラ。よく石ころを壁に投げて、その響きを聞いていたのです。そして今、彼女はたびたび塔の上からクレタ軍を眺めていたのです。彼女はクレタの武将たちの名前やその武具など、すべて覚えていました。
そんなクレタ軍の中でも、スキュラはミノス王から目が離せません。羽飾りの兜姿、盾を持つ姿、槍を投げる姿、大弓を引きしぼる姿はアポロン神もかくあらん—と熱い想いを胸に秘めていました。
「この戦いを喜んだらいいのか、悲しんだらいいのか? 悲しいのは、ミノス王がメガラの敵だということ。でも、この戦いがなければ、彼を知ることはなかった。
わたしを人質にとり伴侶にすれば、平和の保証になりはしないか? もし、翼があり、クレタの陣中におりたち、燃える思いを告げ、縁組の引き出物に何がいいか聞けたら。ただ、このメガラの城だけはダメ。父親を裏切りたくはない……」
父の緋色の髪の毛を切りとる娘スキュラ
スキュラは、もんもんと悩みます。
「いずれメガラは、ミノス王に敗北する。そうなれば、この都がどうなるかわからない。その前にわたしの愛が城門を開いたっていいのではないか。それに、息子のために戦っている正義のミノス王ならば、きっとメガラの住民に酷い扱いはしないだろう。
あの方にとっても、戦わず勝利を手にすれば、自国の兵士を失うこともない。なんといってもあの方自身が傷つくこともない。戦いだもの、あの方が矢や槍で傷つくことがないとも限らないし……
そうだ、考えは決まった! わたしにとって一番必要なのは、父の緋色の髪の房だ。あれこそ、わたしの願いをかなえさせてくれるだろう」
その夜、決意したスキュラは父親の部屋に忍びこみ、緋色の髪の毛を切りとったのです。その後すぐに城門をこっそり出ると、ミノス王の陣営に向かいました。
驚く敵の見張りの前を、スキュラは恐れることもなく堂々と歩いていきました。そして、憧れのミノス王の前にたったのです。
※下は聖書の『サムソンとデリラ』の絵画ですが、モチーフが似ています。サムソンはデリラによって怪力の秘密である長髪を失い、ペリシテ人に捕らえられ盲目にされます。
サムソンとデリラ