- 若きアポロン神は、小さな愛の神クピド(エロス)に「弓矢を手放すよう」忠告します。
- クピドの矢には「金の矢」と「鉛の矢」があります。金の矢は恋心をかき立て、鉛の矢は恋を嫌いにさせます。アポロンは「金の矢」でうたれ、ダプネは「鉛の矢」でうたれます。
- 月桂樹に変身したダプネ。いつの時代にも、アポロンは競技の勝者に月桂樹の冠をかけるようにします。
※神の名前は、ローマ神話名(ギリシャ神話名)です。
若きアポロン神と愛の神クピド
若きアポロン神とクピド
若きアポロン神は、クピド(エロス)に言いました。
「いたずら好きの坊や。強力な弓矢は、ぼくのような者が持つのがふさわしいのだ。だって、ぼくは巨大なヘビのピュトンをたおしたばかりだからね。坊やは、あやしい恋の火を燃え立たせることに満足していることだ。ぼく以外は、弓矢を持つべきではないのだよ」
「アポロンさん、たしかにあなたの矢はなんでも射ぬけるでしょう。でもね、ぼくの矢はあなただって射ぬけるんだ。あなたの誉れは、ぼくの誉れにかないっこありませんよ」
こう言うと、クピドはすぐさま「金の矢」でアポロンを、「鉛の矢」で河の神ペネイオスの娘ダプネを射ぬきました。「金の矢」は、恋心をかき立てます。反対に、「鉛の矢」は恋することを嫌わせます。
また、ダプネは月と狩の女神ディアナ(アルテミス)のように、いつも森で獣をとらえ皮をはぐのを好んでいます。だから、もともと色恋、結婚には関心がありません。クビドの母である女神ウェヌス(アフロディテ)がダプネを嫌う理由です。だから、クピドは彼女を射たのでしょう。
「そろそろ結婚して、孫を見させてくれ」と、父の河神ペネイオスが言っても、ダプネは答えます。「わたしは結婚しません。大神ユピテル(ゼウス)だって、娘のアルテミスが結婚しないのをゆるしているでしょ」
しかし、ダプネの美しさが、彼女の望みを許さなかったのです
逃げるダプネを追いかけるアポロン
「ペネイオスの娘よ、お願いだ。待ってくれ! 追いかけるのは、おまえに恋しているからだ。おまえが転んで怪我をしないか心配なのだ。ぼくは悪者でも敵でもない。ましてや、この辺のみすぼらしい羊飼いでもない。大神ユピテル(ゼウス)の子で、あの予言の聖地デルポイの支配者なんだよ」
予言の神アポロンは、いまや自分の未来を見ることさえできません。愛の神クピドの「金の矢」は、それほどの力を持っているのです。
逃げるダプネは美しく、アポロンは「ああ、はやくダプネにふれたい、抱きしめたい!」そう思うアポロンの足は、ついつい速くなります。ダプネは神ではなく娘ですから、疲れてしまいました。とうとう、アポロンの手がダプネに触れそうになります。
そこは、ダプネの父ペネイオスの河辺でした。彼女は叫びました。「助けて、お父さま! 河の流れが神性を持っているなら、このわたしを別のものにかえてください!」
ダプネとアポロン
月桂樹になったダプネ
なんということでしょう。ダプネの髪の毛は葉になり、手の指は小枝になり、腕は枝になってしまいました。足は根になり、地の中に入っていくと、ダプネはもう動けなくなっていました。さらに、木の皮が顔やからだをおおっていきます。
とうとう、ダプネは月桂樹に変身してしまったのです。
「ダプネよ、もうきみをお嫁さんにすることはできない。せめて、これからは、ぼくの木になってもらいたい。愛しい月桂樹よ、ぼくの髪も、竪琴も、矢筒もおまえに飾られるだろう。いつどこでも勝者の頭に冠としてかざられよう」
アポロンの言葉にこたえるように、月桂樹のこずえがかすかにふるえました。
月桂樹に変身するダプネ